第39話 問題の解決に向けて...。

「この度は正様が突然亡くなられて、ご苦労が多かったこととお察しします。私達も驚きました。正様は人柄もよく、仕事にも熱心なお方でした」


 カーシャと岩ちゃんを落ち着かせてから、本題に入った。まずは、親父の突然の死をユリーは悔やんでくれた。


「正様の突然の死は君江様の心に深い傷を残し、"根津精肉店"を続ける気力を失いかけました。このままでは、友三様が築き上げた"根津精肉店"が消えてしまう、そう心配しました」


 あの地下室の壊れた冷蔵庫を通ってサーマレントに行くまでは、"根津精肉店"を閉める方向に俺もお袋も傾いていたからな...。


「しかし、まるで友三様のお導きかのように、三代目が現れ、オーク肉を持ち帰って来られました。私たちはその光景に感嘆し、サーマレントと地球を行き来する友三様の後継者が現れたことに驚きと喜びを隠せませんでした!」


 目を少し伏せ、親父の死を悼みながらも、俺が持ち帰ったオーク肉についての驚きを伝えた。


 親父の死を岩ちゃんも悔やんでくれた。


「正は本当にいい奴だったよ。ここで柴と正と三人でよく飲んだもんさ...」と岩ちゃんはしみじみと語った。「正は酔っぱらうと「異世界行きてぇ~!!オーク倒してぇ~!」って良く叫んでいたなぁ」と懐かしそうに笑いながら、岩ちゃんは指に”幻影の指輪”をはめて、元の姿に戻った。


 まあ、いつ他のお客が間違って入ってくるか分からないからな。それにしても親父...。酔っ払って何を叫んでいるんだ⁉異世界人の前で...。


 ユリーは話題を先程の話に戻すかのように、静かに言葉を紡いだ。


「ただ…三代目の出現は嬉しい反面、このまま進めば友三様が抱えた問題に直面するか、すでに同じ状況下にあるのではないかと思いました」彼女の視線が俺に向けられ、その瞳には深い思慮が宿っていた。


 ”うん、その通り”と思いながら、串焼きの”ねぎま”を口に含みつつ、ユリーを見つめ頷いた。


「ただ、ご安心ください。サーマレントからこちらに来た者すべてが延命族です。人族が送る人生の何倍、いや何十倍の時間を過ごすことが可能です。この莫大な時間を利用して、我々はこの問題に着手しておりました」

 

 ユリーは静かに自信に満ちた表情で語った。”もう問題は解決してあります”と。


「サーマレントの食品や品物が、地球上で売り出せるルートの手配は着手済です」と、ユリーは話を更に進めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まずそのために、私たちはSMR Internationalという商社を立ち上げました。現在は規模を拡大し、社名もSMR Holdingsに社名を変更しております。延命族の利点と、幻影の指輪、元暗部や冒険者としての身体能力と諜報能力、更にサーマレントで発掘された金、銀、ダイヤ、エメラルド、サファイアなどを資本にして」


 おいおい、SMR Holdings、略してSMRって急成長を遂げている一流商社じゃないか⁉日本だけではなく各国と商談をする、今や日本のトップ企業と言われる会社だ。


 そんなすごい商社を立ち上げたのか...。確かにバロンとエメリアが言う通りの凄い人たちなんだな。友三爺さんを慕って地球に来た人たちって。


「我々は営業パイプラインや販売ルートを活用し、サーマレント産の肉や魚の流通ルートを整備しました。まず、肉については日本の数か所にSMR独自の牧場、”NEZU牧場”を設け、三代目がサーマレントで得た肉を”NEZU牧場”で育てたことにして、”根津精肉店”で直売します」とユリーは語った。


 すげえな...”NEZU牧場”⁉サーマレントで得た肉を地球で売るためだけの、いわば産地偽装専用の牧場じゃないか⁉そんなものまで準備してあるとは...凄い行動力だな。恐るべきSMR Holdings...。


 だが...。”NEZU牧場”産として豚を販売するには、その場所で実際に豚を飼育する必要があるな。牧場に一頭もいないのに肉を販売するのは、怪しすぎる。


 また、”NEZU牧場”で飼育する”豚のDNA”と販売される肉の親和性もある程度確保する必要があるだろう。


 今後、サーマレントの豚を生きたまま持ち込む必要があるかもな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれこれ悩んでいる俺をよそに、カーシャは岩ちゃん特製の”タルタルソースたっぷりの南蛮焼き”を食べてキャーキャー言っている。


 出会った頃はクールビューティーだと思っていたのに...。キャラ崩壊だな。


 そんな地球の味を堪能しているカーシャをよそに、ユリーは話を続けた。「 あと...三代目が現地で狩ったオーク肉を”NEZU牧場”を経由して販売しますが、私たちSMRは牧場を産地偽造のためだけに用意したわけではありません」ときっぱりと言った。


 さらにユリーは話を続けた。


「友三様がサーマレントで狩ったオーク肉から得た血液や骨髄からDNAを採取し、SMRの研究班が独自の知識と技術を駆使して交配を繰り返した結果、サーマレント産オリジナルのオーク肉の味やうま味、DNAの再現を6割ほどにまで近づけた豚の育成に成功しております」


 おいおい、6割と言ったら次第点じゃないか...。しかも、30年や40年の内に、地球でサーマレント産のオーク肉のDNAを組み込んだ豚を育成するなんて凄いな。


「他の魔物、ミノタウロスや、コカトリス、ボアも同様に研究を進めております。三代目がサーマレントから新たに新鮮な血液や骨髄をお持ち下されば、一気に完全なる再現に近づくと思われます。近い将来に必ず」とユリーは熱い瞳で俺に訴えた。


 まあ、サーマレントでこれらの魔物を狩ってくればいいのなら、俺の探知魔法”森本オレさん”を駆使してすぐに狩って来よう。日本でサーマレント産の魔物のうま味や味わい、さらにはそのDNAを持つ豚、牛、鶏、猪の完成まで、あと一歩だな。


 ちょうど”ニクマツリ”に行ってみたかったしな...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「魚に関しては、数か所の漁場でサーマレント産の魚の養殖が進んでおり、”遺伝子改良”を重ねた結果、友三様がサーマレントで捕った魚の殆どが8割ほどの親和性を得ています。ただし...と言った後、ユリーは少し表情を曇らせた。


 もう8割もDNAの親和性を得ているの⁉ほとんど完成しているじゃないか⁉ なぜそんなに曇った表情をするのだろう?「ユリー、なぜそんなに表情が冴えないの?」と、単刀直入に理由を尋ねてみた。


 ユリーは少し申し訳なさそうに、「友三様はご自身で漁をした新鮮な魚を持って来てくださいました。このため、沖合で獲れるサンマやサケ、マグロ、カジキ、イカなどはまだ養殖が進んでおりません」と言った。


 いやいや、そんなに申し訳なさそうにしないで。精肉店のことだけを考えれば、魚の養殖は必要ないから。"柳ケ瀬風雅商店街"全体のことを考えてくれていたんだな。ありがとう...。


 ユリーによると、果物や野菜も肉や魚と同様に、サーマレント産の栽培に力を入れているそうだ。


「最後に、鉱物やサーマレントの財宝、貴金属についてですが、どんな鉱物でもお持ちいただければ、販売ルートは確立されています。むしろ、鉱物はすぐにでも欲しいくらいです!」


 鉱物が欲しいくらい?どういうことですか?

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