第27話 緊急の呼び出し

 ダイスとサイモンの暗殺を未遂に防ぐことができた。”飲みつぶ”のメンバーも元気だし、カーシャも可愛い...。よかった。


 いかんいかん、そんな悠長なことを言っている場合じゃなかったんだ。


 気がつけばもう10時を過ぎている。海に行ってみようかな?それとも、日本と同じように魚市場があるのだろうか?まあ、何にせよ、本来の目的である大量の魚をゲットして、日本にサクッと持って帰りますか!


 商店街において目玉商品が増えることは、集客の増加につながる。精肉店だけではなく、”柴田水産”も活気づけば、"柳ケ瀬風雅商店街"の目玉が増える。さらに、”タコマンボウ”を含む居酒屋や料理店にサーマレント産の美味しい食材を卸せば、食通連中の舌をもことが出来るだろう。


 旨いラーメン屋やスイーツ店を求めて遠路はるばるやって来るお客さんって結構多いからな。うちのお店もSNSで話題になったオーク肉を、遠路はるばる買いに来てくれるお客様もいるからな。


 FoxbookやLOINEロイン、 Zなどを総活用しないとな。SNSに詳しい沙羅に相談だな。


 しかし、まだまだ野菜や果物、キノコや乳製品など、欲しいモノは山のようにある。もっと欲を言えば、食材だけじゃ無く、洋服屋や呉服屋、貴金属店が充実する様な素材や品物が欲しい。


 サーマレントには多くのお宝が眠っていそうだ。どんどん探していこう。そうすれば商店街の活性化だけでなく、”俺を待ちわびている者たち”とも出会えるかもしれない。いや、必ず出会える...そんな気がする。


 イベントもしたいよな。リアル脱出系やお化け屋敷とか。シャッター率日本一を逆手に取った不気味な空間を利用したイベントも面白そうだ。


 さらに、有名なキャラとのコラボも考えたい。今大人気の”ミニかわ”や”名探偵小金沢くん"、そして"ペケモン”などとコラボできれば、一気に知名度が広がるだろう。


 夢は広がる...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんなわけで、ちょっくら魚でも取りに行きますかと、気合の入った俺に「太郎様、本日のご予定は如何なものですか?」と、サイモンが尋ねてきた。


「そうだな。今回こっちの世界に来た理由は、魚類や甲殻類、イカやタコなどの軟体動物が、俺が住んでいる”地球”と類似する形や味かどうかを知り、持ち帰るためだ。だから、色々な魚を見て触って確認して、味わって持ち帰りたい」と告げた。


 サイモンに目的の一部を話した。魚以外の食材まで探す時間もないからな。今日は海のモノの調達のみだな。


「...。...。....も...」


 うん⁉サイモン、なんか言った?何か聞こえたような気がしたんだけど...気のせいか...。


 魚の話に戻るが、それらが”地球上”の物と比べて美味しいのか、不味いのか?美味しかったら大量に仕入れたい。柴さんもサーマレント産の食材は旨いって言っていたし、多分大丈夫だと思うが。


 日本で人気のあるマグロやカニ、旬のアマダイにイワシ、サンマ、カレイなどが欲しいな。


 まずはこの漁場で、どんな海の生き物が獲れるのかを知ることからかな。


「では、私が魚市場をご案内いたします。その後、漁を行うのであれば近隣の漁師に手伝わせます。何なりとご指示下さい」


 しかし、そんな俺のワクワクしたお気楽な思いを打ち砕く声が、頭の中に響きわたった。


「た...たろ...」


 うん⁉誰かなんか言ったかな?こんなことが以前にもあった様な気がするが...。


「た...たろ...たろう...!」


 お、俺の名をはっきりと呼ぶ声が!これは友三爺さんじゃないか⁉爺さんなのかい⁉


 俺は今、友三爺さんが大切にしていた人たちの子孫と会っているよ⁉どこかで俺を見ているの⁉見ているなら姿を現してよ!せめて返事だけでもしてくれよ!


 本当に、このアーレント商会に”生霊”として住みついているのか?何だか、本当に怖くなってきた...。


 そんな俺に対して、また友三爺さんらしき声が語りかけて来た。


「太郎!太郎よ!今すぐ地球に戻るのじゃ!とにかく帰るのじゃ!!おまえに救いを求めている者は、どうやらサーマレントだけじゃないようなのじゃ!この者は、お前を地球で待っておる!今すぐに地球に戻るのじゃ!!」


 ど、どう言う事⁉俺に救いを求めている者って、サーマレントだけじゃないの?まあ、友三爺さんがどこでどうやって俺を見ているかは置いといて、急いで戻った方がいいようだな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「急にごめんよ、みんな...。漁の前に一旦戻らなきゃいけないみたいなんだ。きちんと戻ってくるから、時間をくれ、いえ下さい」と俺はみんなに頭を下げた。


 そんな俺に対して、ダイスは「もちろんお帰り下さい。私のこととはいえ、無理やりにサイモンが引っ張って来たのですから,帰るのは当然です。用事を済ませていつでもお戻りください。1年でも2年後でも我々は待っておりますから」と俺を真直ぐに見つめて言ってきた。


 そんなかからないと思うけど...。だ、大丈夫だよね、友三爺さん...⁉


 おいおい、みんな真顔で頷いているぞ...⁉忠犬ポチ公’sじゃないんだから。そんなに待たないで下さい。


 では、お言葉に甘えてと、椅子から腰を持ち上げようとすると、涙袋に大量の涙をためたカーシャが「太郎様!か、必ず戻ってきてくださいますよね...!」と俺を見上げるように言ってきた。


 な、なんだか、すごく大げさになってきた。や、止めて。今生の別れじゃないんだから。こんなに大ごとになると、逆に2,3日じゃ帰ってきづらいじゃんか⁉


 でも、ここは何とかカーシャを説得して、一旦地球に戻らねば。友三爺さんの声は真剣そのものだったしな...。


 カーシャはすごく泣きたいのを必死に我慢して、涙袋に涙をためている。だが、どんどん涙がたまっていき、もうすぐ決壊しそうだ。彼女は俺についてきたそうだ。もうそれなら...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「太郎様について行くことだけは絶対にダメだ、カーシャ!」と、ダイスがカーシャに強い口調で告げた。


 有無を言わせぬアーレント家家長の威厳を見せた。


 すげー迫力。孫娘に甘いダイスの事だから「そんな行きたいのなら、太郎様さえ迷惑でないのなら一緒に行ってくればいい。社会勉強になるだろう」と言うかと思っていた。


 俺も「そんなに来たいのなら、一緒に来る⁉」と言いかけて、慌てて言うのをやめるほどの迫力だった。


 孫娘にメロメロなダイスが、あんなに厳しく引き止めるなんて。以外だ...。


 ダイスから叱られ”しゅん”としてしまったカーシャをなだめ、「早く帰って来るからね。あと、地球の珍しいお菓子も持ってくるよ」と告げた。


 するとカーシャは俺を見上げて、「私はそんなものより、太郎様が一刻も早く戻って来てくださることを願っています!!」と言って俺を見つめてきた。


 カーシャ...ありがとう。惚れてまう...。


 もう年齢とか関係ないかな...?


 たが、酒飲みジジイが「太郎様、日本酒を、日本酒を我に...」と言って来た。


 己の酒道に愚直な程真っ直ぐに懇願してくれたおかげで、少し理性を取り戻すことが出来そうだ。


 カーシャはまだ14歳。冷静になれ自分!


 そんな中、身体の9割がお酒で出来ていると思われるバロンの隣で、真っ赤な顔でプルプルと震えているエルフが「ܐܠܟܬܒܐ ܡܠܝܟܐ αβγδε زيدون ܫܠܡܐ ܐܠܠܗ」と呟くと、バロンの頸がカクンと前に傾き、壊れた人形のように動かなくなった...。


「ほほほほ、うちの主人たら、飲み過ぎた様で...」と、にこやかにエルフがほほ笑んだ...。


 ほほほほ,,,じゃねえよ。まあ、二人の夫婦漫才は放っておこう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 場が再び静まり返った。誰も何を言えばいいのか分からないからだ。


 その重苦しい雰囲気の中、ダイスは静かに語りかけた。「カーシャ、太郎様が戻ってしまって辛いのは分かる。そして、わしも出来る事なら太郎様と共にカーシャを行かせてやりたい。だが...きっとカーシャが付いて行くと、後々太郎様が友三様とを味わうことになるだろう。だから、ここは我慢してくれ」と、孫を思いやるお爺ちゃんの眼差しでカーシャを見つめた。


 ダイス...。


 友三さん同じ苦しみって...よく分からない。だが、友三爺さんはサーマレントの人を地球に招いたことがあるのか...⁉そして何かが起こり、後悔するような出来事があったというのか...?


 ダイスの表情には何とも言えない深い悲しみが浮かんでいた。その表情を見た賢いカーシャは「はい...」と渋々納得したようだ。


 カーシャに俺は優しく語りかけた。「すぐに帰って来るからね。そして、特別なお土産を買って来るからね」と言って、俺はカーシャに笑みを送った。


 そんな俺に、カーシャは「太郎様...お待ちしております...」と、何ともけなげな微笑みを俺に送り返してきた...。


 さあ、地球に帰ろう!俺たちを待っている"者たち"ってどんな人たちなんだ⁉”何とも不明な点が多いが、友三爺さんの言いつけを守り、急いで地球に戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る