第8話 "根津精肉店" 復活に向けて!!
ふう、地下室に戻ってきた。なんだか久しぶりの様な気がする。半日ぐらいしか経っていないのに。サーマレントで過ごした時間の流れと、
大量のオーク肉をサーマレントから、地球に持ち込んだ。食材となる部分のみを持って帰ってきた。オークの角や骨が万が一でも発見されたら大騒ぎになってしまうから。それだけは避けたい。肉の旨さで目立ちたい。違う事で目立ちたくないからね。
肉だけで300㎏。こんなにも美味しい肉をタダで仕入れてしまった。つまり、元手は0円。借金に苦しむ"根津精肉店"にとって、これほどありがたいことはない。
今後もオークを仕留めれば、仕入れ値がタダで済む。
しかし、こんなことを続けていたら、税務署や保健所に目をつけられるだろう。
税務署からは、肉をどこで仕入れて来たかを詳しく聞かれるだろうし、保健所からは申告した肉で間違いないか調べられるだろう。
「異世界のサーマレント産のオークです」
正直に税務署や保健所に言っても、通用するとは思えない。いや、絶対に通用しない。
まあ今後は、市場から安い豚肉を同じ分だけ購入し、オーク肉を高級豚肉として売ろう。実質タダとはいかないが、差額だけでも十分な利益となる。
市場で買った安価な豚肉は、コロッケやメンチカツなどの総菜や豚汁として販売をしてしまおう。
また、オーク肉以外にも食べれる魔物、例えばボアやミノタウロス、ベアなどを探してみようかな。
店頭に並べたいかも。食べられる魔物をコンプリートしようかな。これぞ男のロマン...だよね。
さらに、俺には時間停止と容量無制限のアイテムボックスもある。
この能力も非常にありがたい。それこそ俺が市場に行けば、どんな物でも鮮度が抜群で、手軽に運べてしまう。運送などの仲買業者を通さなくても済む。
こうやって考えると、異世界と精肉店の経営って意外と相性がいいのかもしれない。
オークを倒すだけの力が身について、300kgぐらいなら楽々持ち上げられるし運べる。いいことだらけだな。本当にお金に困ったら、豚のマスクでも被って、"オークマン"というリングネームで暴れてみようかな...。ただ、リングネームは再度検討が必要かもしれないな。
とりあえず、このオーク肉を地域のお客さんにお値打ちな価格で提供しよう。まずはこの美味しさを体験してもらいたい。味わってもらいたい!
この肉ならいける!起死回生のスーパーセールを実施しよう!焼いて焼いて焼きまくりだ!!
友三爺さんから始まった"根津精肉店"を、親父の不幸な事故で無くすわけにはいかない。
俺が中心となり、お袋とトヨさん、更にはもっと従業員を増やし、昔の賑わいを呼び戻すんだ!いいやそれだけじゃない。"柳ケ瀬風雅商店街"自体も元気にしたい。サーマレント産の食べ物や郷土品など商店街で売りだせば、人気が出るかもしれない。その為にもエルフの国に行って、協力を仰がないとな。
そうすれば見たことのない様なもの、味で埋め尽くされた商店街、"New柳ケ瀬風雅商店街"の出来上がりだ!!そうすればきっと...。
昔のように賑やかで、活気のあふれる商店街が復活するはず!!
そして岐阜市内一、いやいや県で一番の商店街になることも可能だ!大須コメダ商店街すら抜いてみせるぜ!!まあすぐにではないけど...。そのうちにね。
まあ、夢はおいおい叶えるとして、肉のスーパーセールを行う為の準備を行わなければ。
その為には、お袋とトヨさんの協力が必要不可欠となる。何といっても"根津精肉店"の貴重な従業員だからな。
この為2人には、「肉のスーパーセールを行いたい」と、俺の思いを話し、「セールの為に協力して欲しい」と頼んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お袋は「店をたたむんじゃないのかい?今更やるだけ...」と弱気な発言が目立つ。店をたたみたくないが、これ以上営業を続けても、借金が増えて俺が困ることを心配しているのかもしれない。
一方のトヨさんは、「やっと決心して下さったのですね!このトヨが、全身全霊で坊ちゃん、いえ店長を支えます!!」と、えらい乗り気であった。
トヨさんはよっぽどこの店が好きなのか、友三爺さんの代から働いてくれている。年の割には姿勢もよく、きびきびと動く。非常に働き者だ。ただ、俺の事を"坊ちゃん"と呼ぶのが少し恥ずかしかった。だが、今日からは"三代目"と呼ぶ様だ。それもまた、少し恥ずかしい...。
「でもねえ太郎、借金もあるし、やる気だけあっても、上手くいかないのは火を見るより明らかだよ。スーパーセールの時だけ安くしても、お客さんは固定客にはならないよ」と、お袋は的確な指摘をして来た。
更に、お袋は「お客様を呼び込めるような高級なお肉を、安価で用意できる訳が無い」や「借金が
まあ、ここで反論しても水掛け論になるだけだ。下手な言葉をかけるよりも、胃袋で納得してもらった方が速いだろう。
まず、お袋とトヨさんにオーク肉を食べてもらうのが一番だ。食べれば分かるはずだ。この肉の味の良さを。だから俺は言葉ではなく、二人の胃袋を味方につける作戦に出た。
まあ、お袋が言うのもよく分かる。だが、俺の言葉を信じて、まずはこの肉を食べてくれと、切り分けたオーク肉をお皿に盛り、二人のテーブルの前に置いた。
お袋が「豚肉かい?」と、俺が目の前に差し出したオーク肉を見て呟く。そしてトヨさんも「随分と綺麗な肉ですね。それに、まさかこれって...!!あ、いえ、なんでもございません」と、一瞬驚いた顔貌を見せた後、すぐに冷静な表情に戻った。
どうしたんだろう、トヨさん?
「まあ、まずは食べてみてよ」と言いながら、俺は2人の目の前のホットプレートにオーク肉を並べる。まずは、ロースから。
ジュ~!!
目の前で肉の焼けるいい音がする。この音を聞くだけで、少し前にサーマレントで味わった肉の味が思い出され、口の中によだれが出て来る。もう、パブロフの犬状態。
オーク肉の香ばしく焼ける匂いが部屋中に広がる。その匂いにお袋が、「何だか美味しそうな香りだね?」と、更に興味を抱いたようだ。
そして、トヨさんは...。何故か非常に驚いた顔をしている。そんな驚いた表情をしているトヨさんを見つめると、「あ、あら、本当に、いい匂い」と、慌てたようにお袋と同じ言葉を口にした。
何だかオーク肉を見てからトヨさんが、いつもと違う。どうしたんだろう?
少し炙っただけのオーク肉を二人の皿に盛りつけた。
「ありがとうよ、太郎、食べさせてもらうよ。頂きます」と言った後、お袋はオーク肉を口にした。更に、「店長、私も頂きますね」とトヨさんも。
2人がオーク肉を口にいれた数秒後...。
「何なんだい⁉この美味しさは!信じられないくらい美味しいね!」とお袋が言った直後、トヨさんも「肉汁が溢れ出てきます!でも脂っぽくないし、いくらでも食べられますよ!」と言った。お袋もトヨさんも非常に驚いた表情を浮かべながら、手元のオーク肉を見つめた。
しかし、箸は一向に止まる気配はない。
初めてオーク肉を食べた時の、俺と同じような反応を見てなんとなく笑えてしまった。
俺が用意したオーク肉の半分ぐらいが無くなった頃、お袋が急に、「そうだ、この味だよ!友三さんがよく持って来てくれた肉と同じ味だよ!」と、興奮気味にトヨさんに伝えた。
トヨさんも、「そうですね、奥様。この味ですよ。本当ですね...。本当に懐かしいですね」と、昔を思い出したかのように、しみじみとした口調で呟いた。そして、トヨさんの頬には、両目からあふれ出した透明な液体が...。見なかったことにしておこう。
お袋によると、友三爺さんは「ちょっと肉の仕入れに行ってくらぁ」と言って地下室に向かい、気づけば巨大な肉の塊を何個も持って帰ってきていたという。
なんでも「わしにしか売ってくれない、特別な肉だ」と言っていたらしい。サーマレントで狩りをしていたな、友三爺さん...。
「間違いないよ、あの時の肉の味だよ」と、お袋は興奮した口調だ。
「また同じ味わいのお肉が食べられれるなんて。お父さんもこの肉の味が好きでね...。お父さんが亡くなってしまって、"根津精肉店"をもう閉めようかと思ったけど...」
父親の遺影に向かって、静かに語りかけた...。
「不思議なもんだね。この肉を食べたらまだまだやれる様な気がしてきたよ。いや...まだまだやらなきゃだめだよね。あんなにお父さん、頑張っていたんだから...」
目に涙をにじませながらも、お袋は最後には笑っていた...。さらに...。
「そうですよ。まだまだ頑張らないと。友三さんも応援していますよ!私もできるだけのことをします。みんなで頑張っていきましょう!」
頼りになるバート従業員、トヨさんが力強い口調で言った。ありがたいの一言だ。
お袋が元気を取り戻した様な気がする。
そして変わらずに、うちの店を支えてくれるトヨさん。
みんなの気持ちが一つになった。こうしてはいられない。すぐにお店を再開しなければ...。やることは山のようにある。さあ"根津精肉店"、復活の時間だ!
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