第7話 異世界名物 アイテムボックス
あ、肉が消えた。もったいないどうしようと少し慌ててしまった。
だってあんなに美味しい肉だ。そりゃ突然消えたら慌ててしまう。エリーの方を向いて表情で訴えた。
「大丈夫、大丈夫よタロウ、落ち着いて。頭の中で"アイテムボックス一覧"と強く念じてみて。太郎の異空間内にオーク肉が保管されていると思うから」
俺の慌てっぷりを察し、とにかく落ち着かせようとしてくれた。後で振り返ると少し恥ずかしい。でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。戻ってきておくれ、俺のお肉ちゃ~ん!!
頭の中でえーと、"アイテムボックス一覧"っと。
すると突然、頭の中に謎の画面が浮かびあがった。その画面には、"オーク肉ブロック"という文字と、その横に120という数字が記されていた。何とも奇妙な現象だ。先程解体した3頭分のオーク肉が、エリーが言うところの異世界、そしてそこに存在する俺の収納庫に収められているようだ。
「どう、タロウ?これでオーク肉を簡単に向こうの世界に持って行けるでしょ?すごいよ、タロウ!友三さんは、オーク肉を2頭分ぐらいしか収納できなかった。でも、タロウは3頭分のオーク肉を余裕で収納出来ちゃった!タロウは魔法の才能があるんだよ!!」
エリーは嬉しそうに、俺の手を力強く握り締めた。可愛いいな、エリー。
だけど、着ているサーコートには、先ほどの解体作業で飛び散ったオークの血液が、あちらこちらにこびりついている。
う~ん、エリーが和やかにほほ笑めば微笑むほど、俺の心は恐怖で震えてしまう...。
そんな俺の視線を感じたのか、エリーは自分に向かって「クリーン」と唱えた。すると、手や洋服についたオークの血がすっかり消えてしまった。
魔法って、便利だなー。
洋服の"染み抜き"の仕事で、一生を過ごせるかもしれないと思いながら、その不思議な光景を見つめていた。特に着物の"染み抜き"作業は、非常に高額な請求が来るって聞くもんな。
「す、すごい!汚れが全部消えてしまった...」と、俺は驚きを隠せずに言葉にした。それに対してエリーは、「タロウもやってごらんよ。すっきりするよ」と、涼しい顔で返してきた。
俺も...出来るの?
「ク、クリーン!!」と、緊張からか無駄に大声で魔法を唱えると、唱えた瞬間、洋服だけではなく俺の全身の汚れが洗い流されるような心地よさに全身が包まれた。
「は~気持ちいい」と思わず声に出してしまった。それは、まるでサウナ後の水風呂に浸かった時の爽快感を彷彿とさせるものだった。堪らんですよ、これは...。
そんな一人で、クリーンの魔法を満喫している俺に対してエリーは、「タロウの場合は、大気中にある魔力が競うようにタロウの体内に入っていくから、無限に魔法を使うことができると思う。少しでも魔力が減ったら、すぐに次の魔力が体に入っていくから。だから、定期的にこっちの世界に来て魔力を補給すれば...」
これから肝心なことを俺に話すかのように、エリーは一旦間を空けて俺の瞳を真直ぐにみつめる。
その続きを恐る恐る探るかのように俺は...。
「補給すれば?」と、エリーに尋ねた。
魔力を補給すれば、アイテムボックスなどの効力が上がるのだろう。例えば、アイテムボックス内の物の鮮度が多少延びたり、物品も多少多く収納できたりすると思う。だが確信はない。だからエリーが話そうとした、続きの言葉を口から聞きたい。エリー教えてくれ。魔力を補給すればどうなるかを...。
「魔力を補給すれば、アイテムボックス内の時間を止めることや、収納量も無限にすることも可能だと思う」
エリーは俺の求めている言葉、それ以上の内容を告げてきた。
やばい、やばい。ただでさえ嬉しい収納魔法なのに。
時間も止められ、無制限に荷物を異空間に入れられるなんて。
精肉店を経営する上では、すごいコストカットになる。俺が市場に行って、色々な商品を買い込んでくれば、運送業者に商品の輸送を頼まなくていい。鮮度も保ちたい放題だ!
やばい。すごいな異世界能力。
「でもね...アイテムボックスで時間を止める事ができるのは、タロウだけだと思う。普通はできない。そんなことをしたらすぐに魔力枯渇が起きちゃう。つまり気を失ってしまう」
エリーは、これまた真顔で教えてくれた。
「あと、覚えたい魔法があるなら、自分で作ってみるのもお勧めだよ。魔法に新たな機能などを付属するようなイメージをすれば、タロウなら可能だと思うよ。だってどんなに自分に都合のいい魔法でも、無限大の魔力が可能にしちゃうから」
なにこれ?いつの間にか、異世界小説の主人公枠に昇格?
27年間、頑張って生きてきたかいがあった。この美味しいオーク肉を"根津精肉店"で販売すれば、売り上げアップは間違いない。更には"柳ケ瀬風雅商店街"全体の活性化につながるかもしれない。
「ありがとうな、エリー。何から何まで」
エリーに向かって、深々とお辞儀をして感謝の気持ちを伝えた。
「本当にいいってば!」
少し照れるように、俺からの視線を外して呟いた。心なしか頬も赤くなっている...かな?
そんな微妙な空気を打ち消すかの様に、エリーは、スッと立ち上がって、お尻を2.3回パンパンとはらった。そして...。
「さてと私は、一回エルフの里に帰って、タロウに会えたことを長老様に報告してくるね!みんな驚くだろうし、会いたがると思うよ!」
エリーは話を変えるかの様に、俺に伝えた。
「エルフって人間嫌いとか他の種族と交流しないんじゃないの?」
地球で読む小説や漫画情報を、そのまま聞いてみた。
するとエリーは少し微笑みながら 、「それは相手が私たちに戦争を仕掛けて来たり、無理やりエルフを奴隷にしようとするから。特に今、人族の国を治めているヒメール王子たちは要注意ね。ただ、タロウや友三さんは別。友三さんはエルフの国や村を、悪徳な奴隷商人から救った英雄だから。その孫であるタロウは間違いなく大歓迎されるよ。絶対!だから、エルフの国に必ず遊びに来てね!」と俺に伝えてきた。
エリーは、そう言ってくれた。
エルフの村か...。なんか神秘的なイメージを掻き立てられるな。自然の中でひっそりと暮らしているんだろうか?ツリーハウスとかに住んでいるのかな?夢が広がる。いつかエルフの国に行ってみたいな...。
「魔法の効果で、太郎がこっちの世界に来ると、気配を感じる事ができるから。また、会いに来るね」
へ―、そんなことも分かるんだ。異世界のことはよくわからないけど、スマホやパソコンはあるのかな?まぁ、無くても魔法で分かれば便利だよな。
「じゃあね」
にこやかな笑顔を残してエリーは、エルフの村に帰っていった。
俺も...。一度、店に戻ろう。
そして、"根津精肉店"の復活セールだ。オーク肉を売って、売って、売りまくろう!
沢山のお客さんを精肉店、いや、商店街に呼び込むぞ!
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