第47話:県大会と病んだ奴ら
高校演劇には、大会というものがある。地区大会、県大会、地方大会、全国大会と、さながら運動部のようだ。僕らの高校は地区大会には普通に勝ち上がるのだが、県大会を勝ち上がったことはほとんどないらしい。
県大会の準備に入ると、部活は殺伐とする。常に険悪な空気感で、稽古場は正直地獄だった。僕は大道具制作で稽古場から離れることが多かったが、部長に「絶対要る」と言われて作ったドアを「要らない」と言われて正直頭にきた。一言礼くらいあってもいいのではないか、と。
結局、何をしていても、自分を含めて病んだ奴らしかいない部活は地獄だった。
余裕がなくなり、姉さんの家からますます足が遠のいた。
昔の僕なら、こういうときは姉さんの家に行こうとしたのに。
ある日、部活動中に部長が急にブチギレた。稽古終わりに顧問が来て、「最近通学路に変質者が出て別の部活帰りの生徒が被害を受けた」と説明したときだ。その後に、「部活の終わりの時間を少し早める」と言ったら、部長がブチギレた。
僕は内心「え? 今キレる要素あった?」と思った。部長が言うには、今は県大会で重要な時期だから時間を早めることなんて許容できないし、ただでさえ時間がないうえにみんな身が入っていないのに時間を早めることはダメだということだった。
僕は、全く逆のことを考えていた。
変に長いから余計グダるのでは? と。空気の悪い空間で、変に長い間、休憩も挟まずにやり続けているからみんな身が入らないのでは? メリハリが無さすぎるのでは? と。
友達が、「落ち着いてください」と泣き出した。
ああもうめちゃくちゃだよ。
副部長が「泣くようなら、この場にいたくない人は帰っていい」と言った。おいおいそりゃ言っちゃダメだろうと思ったら、友達が飛び出した。ああもう本当にめちゃくちゃだ。
僕の喉からは、「いや先生の判断は正しいだろ、お前らが空気悪くしてるから身が入らんのや」という言葉が出かけていた。これを言っては、余計にダメなことになるだろうと思った。
だから、友達と一緒に僕も出ていった。これ以上、空気を悪くしないために。
結局、友達と一緒にまた戻ったのだが、既に話し合いの結論が出ていた。部活時間を短くはするが、先生の言う時間よりも長くやるという折衷案だ。丸いところに落ち着いてよかった、と思った。
ただ、その日から、さらに空気が悪くなった。みんな病んでいた。僕は、この部活をやめようと思った。やっていられない、と。
その日からしばらくして姉さんの家に行き、部活はどうかと聞かれたとき、うまく答えられなかった。
「楽し……くはないな」
「楽しくないの?」
「みんな病んでてねー、空気悪くてねー、部長が急にキレだしてねー」
「おお……ヤバそう」
部活で何があったのか、話してみた。姉さんは僕の心配をしながら、笑っていた。「想像以上にヤバくて笑っちゃった」のだそうだ。姉さんは僕の肩を叩いて、「辞めちまえ」と言った。
「大会終わって落ち着いてしばらくしたらね」
「まあ今は無理かー」
「それこそヤバイことになるし友達なくすわ」
「あはは、たしかに」
ただ、友達はお見通しだったらしい。今でも交流が続いている友達は、「あのときからやめようとしてたのは知ってた」と言っていた。だから実際にやめたところで、友達は僕を責めはしなかっただろう。先輩やほかの部員からは大バッシングを受けただろうが。
「最近大変?」
「まー大変」
「そか、最近あんまり来ないもんね」
「ん……うん」
微妙な顔をしていたら、姉さんが抱き着いてきた。胸が、すっごく痛んだ。僕は姉さんのことが大好きだし、正直いつも会いたいと思っていた。いつでも、いつまでも会いたかった。毎秒会いたいし、一緒に住みたいし、離れたくない。それでも、微妙に足が遠のいているという事実が、僕にとってはとても心苦しかった。
「最近は私は元気だから、今は自分のこと優先して」
「うん、ありがとう」
「ただ、落ち着いたらまたたくさん会いに来てよ。クリスマスパーティもしようよ」
「うん、クリスマスは落ち着かなくてもやろう」
「あはは、いいね」
それから、今年のクリスマスはどういう風に過ごすのかを二時間くらい話した。好きなケーキ屋さんでケーキを予約して、僕が豪華な料理を作って、二人でプレゼントを持ち寄って、ゲームしたりおしゃべりしたりお泊りしたり。そんな風に、幸せに楽しく過ごそうと。
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