第25話:卒業式と崩壊したメンタル
小学校の卒業式が近づいてきた頃、僕はもうギリギリ耐えられるとは言えないレベルになっていた。ギリギリどころか、もう耐えられる気がしなかった。募る罪悪感に、押し潰されていた。
何も感じていないフリをして、本当はしっかり辛かったのだ。本当は、すぐにでもやめたかった。エゴかもしれないが、謝って、それでもう終わりにしたかった。僕はもう、続けてはいけなかった。
「お姉ちゃん、一緒に死んでくれる?」
とうとう、そんなことを言ってしまった。約束したものの、これだけは言うまいとしていたことを。姉さんは微笑んで、「いいよ」と言った。その顔を見て、やっぱり嫌だ、と思った。この人と一緒に死ぬより、一緒に生きていたい。
「だけどさ……一回反抗してみない?」
そんな風に思っていたら、姉さんから意外な提案があった。
「え?」
「どうせ死ぬんならさ、その後でもよかやん?」
「……でも鈴ちゃんが」
「私がよく見ておく。少しでも変だと思ったら無理にでも聞き出すから」
「うん、お願い」
「お姉ちゃんに任せなさい」
この日、既に卒業式の日に呼び出す手紙を出せと言われ、その通りに行動していた。そこで告白しろと言われていたからだ。その様子も遠巻きに見ると言われた。僕は彼女が来てくれたなら、もう二度とこんなことはしないと直接誓うことにした。来てくれなくても、もうしないと決意した。
鈴ちゃんがまたイジメられるかもしれない。
しかし、姉さんを信じることにした。僕が一番信じられる人を、信じたかった。
卒業式の日、正直式のことは何一つとして覚えていない。当時の自分も覚えていなかったらしく、日記には何も書かれていなかった。
式が終わった後、呼び出した場所に行った。落ち着かないからブラックコーヒーを自販機で買って飲んでいると、彼女が現れた。まさか来るとは思っていなかったから、驚いて器官に入ってしまった。
「大丈夫ですか?」
咽ながら「大丈夫です」と答える。落ち着くまで、彼女は待ってくれた。
「今まですみませんでした! もう二度とこんなことはしません」
「……そういうのいいですから。しないでくれたらそれで」
もっと、怒られると思っていた。なじられるものだと。クズだの死ねだの言われるのだと。そう言われて当然のことをしたのだから。
いや、そうしてほしかったのかもしれない。
「弟の面倒みなきゃいけないんで、これで」
「はい、本当にすみませんでした」
足早に去っていく彼女の後ろ姿をちらりと見て、僕は自転車に乗って一目散に逃げ出した。この場にいたら、アイツに詰められてしまう。もしかしたらそれを見られないとも限らない。そうしたら、本当のことを言わなくてはならなくなるかもしれない。それは、嫌だった。
事情を知れば、きっと許してくれるから。
僕は、許されたくなかった。これは僕の罪だ。死ぬまで背負って生きていかなければならない、己の弱さが引き起こした罪なんだ、と。
奴は、追ってこなかった。僕は少し流してから、いつものベンチに向かう。姉さんが有給を取ってまで、ベンチに来てくれていたから。
「終わった?」
「うん、終わったよ」
「おいで」
両手を広げる姉さんの胸に飛び込んで、僕は泣いた。これで終わりなんだと解放された気持ちと、また鈴ちゃんが何かされるかもしれないという危機感とで、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
しかし、少なくとも、これ以上無関係の人間が傷つくことはない。
ひとまず、それでよしとするしかなかった。
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