中学生の部

第26話:中学生になりました

 ギリギリなメンタルを抱えながら、僕は中学生になった。普通に地域の市立中学であり、通っていた小学校ともう一つの別の小学校のメンツが合流する。僕は何か気分を変えなければと思い、陸上部に入ることにした。


 モンハンの掲示板で知り合った人が、たまたま同じタイミングで同じ中学の陸上部に入るそうだった。そんなこともあるんだなと思いながら、大した感慨もなく、中学生になった。


 この頃から、僕は常に寂しさや悲しみや後悔や懺悔などを抱えるようになっていた。どれだけ幸せなときも、楽しいときも。自分自身が乖離していくのに気づかず、ただただ現実にリアルを感じにくくなってきていた。


「進学おめでとう!」

「おめでとう!」

「ヒロくんおめでとおおお!」

「おめでと!」

「ヒロ兄制服かっこいい!」


 家族が、お祝いしてくれた。実の親の何十倍も盛大に祝ってくれて、ああ、やっぱり僕にとって家族はこの人たちなんだなと嬉しくなった。心の何処かでモヤモヤを抱えてはいたが、幸せだった。養父母さんが涙を浮かべながら抱きしめてくれて、姉さんも抱きしめてくれた。


 鈴ちゃんはそんなみんなに呆れたようにしながらも、珍しく僕の頭を撫でた。「頑張ったね」と。例の件は知らない鈴ちゃんから、頑張ったねという言葉が飛び出すとは思ってなくて、泣きそうになった。


 藍ちゃんは制服姿をたくさん褒めてくれて、「私も早く中学生なりたい!」と言っていた。僕が「頑張ってればすぐやで」と言うと、藍ちゃんは「じゃあ頑張る!」と拳を握った。


 藍ちゃんはいつも素直で可愛かった。学校生活も順調で、きっと僕らの中では一番元気な子だった。この子だけはイジメとも人間の愚かしさとも無縁のところで、生きてほしい。そう思ったのを覚えている。


 中学生になったからといって、劇的に変わることはなかった。


 学校生活は変わらず退屈だし、別の学校のメンツも通っていた学校のメンツと精神性にそう違いはないようだった。同い年なのだから当然だが、それがなんだか不思議だった。ネットで知り合った奴とは特別仲良くなったわけでもなく、ただ入学式の日に互いのハンドルネームを呼びあったくらいだ。


 ちょっとシュールな光景だったと思う。


 鈴ちゃんの様子は、あの日から特に変化がないらしい。姉さんが言うなら、そうなんだろうと僕は信じた。僕と会っているときも、特段変わった様子はないと思った。


 きっと、ただの脅しだったんだろう。僕にあんなことをさせて満足したんだろう。呑気に、そう思っていた。そう思わないと、心がどうにかなりそうだった。

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