第16話:初給料の使い道
「給料入った! ちょっといつものとこ来て!」
5月に入ってすぐ、姉さんからそんなメールが来た。初給料でテンションが上がって、会いに来てくれるんだろうなと思って夜に親の目を盗んでいつものベンチに向かう。
ベンチには、姉さんが先に来ていた。聞くと、メールを打ったときには既にいたんだそうだ。
「ヒロくーん! 久しぶり!」
「11日ぶりやね」
「給料入った! はいこれ!」
そう言って姉さんが、包みに入った何かを渡してきた。何だろう、平べったいけど、厚みがあるような。
「開けてみて!」
「う、うん?」
包みを開けると、革表紙のノートとボールペンが出てきた。ボールペンは何やら高そうな質感で、ノートは見るからに高そうだった。少なくとも、近所の文具屋には売っていないようなもので、テンションが上がる。
「早巻きの誕生日プレゼント!」
「え、本当に!? いいの!?」
「去年あげられんやったけんね~、もらうだけになっちゃってたし」
去年の姉さんの誕生日に、僕はプレゼントを渡していた。と言っても小学生の自分に自由に使えるお金など無いから、手作りの雑貨だったが。僕はノートとボールペンを眺めて、「ありがとう!」と精一杯のお礼の言葉を返した。
「日記にでも使って」
「うん! 大事に使う!」
「よかったー、喜んでくれて」
「めちゃくちゃ嬉しいよ!」
「渋すぎるかなとは思ったんよね~」
確かに、今考えてみれば小学生へのプレゼントとしては渋すぎるかもしれない。とはいえ、当時の僕は大人ぶっていたし、こういう渋いものが好きだった。それに何より、僕がつけている日記という名の日々の記録のことを考えてくれたのが嬉しかった。
たまに、姉さんが会話部分を加筆していたけど、このノートとペンを貰ってはじめて、僕は姉さんと一緒に記録を作っているんだという気持ちになった。
元々、この日記という名の記録は、姉さんが言い出したことである。
たまに記憶が飛ぶというようなことを出会った日に話したところ、その日の出来事や会話、感じたことなどを詳しく記録しておくといいと教えてくれた。それを日課にしていたのだ。姉さんと会っていたときのことは、姉さんにも書いてもらっていた。鈴ちゃんや藍ちゃんも、面白がってたまに加筆していた。
いつの日か、僕はこの日記のことを家族の証のように感じていた。
だから、このプレゼントがこれまで貰ったどんなものよりも、嬉しかったんだ。
「ほんまにありがとう」
「ヒロくんにはいっぱい色んなもの貰っとうけんね」
「ん? 手作りのやつくらいやない?」
「そーいうことやなく! ま、えっか! いつかわかる」
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