第三話 「知らない言葉だね」

「うぅ…お腹すいたぁ…」

だだっ広い平原のど真ん中。

真昼の強い日差しに当てられながら、私は寝転んでいた。

今までご飯を食べなかったことは何度もあるけど、

走ったりしたせいかすごくお腹が空いた。

けれど、お金もない。

言葉通じない。

終わった。

どうしよ…。

「お家帰りたいよぉ……」

この変な所に来て何回目だろうか。

そんなことを呟いた。

瞬間、

「…めっちゃわかる」

「うぇぇぇえ!?待って待って誰々だれぇ!?近づかないでぇぇええ!!!」

横から聞こえた声。

思わず叫びながら飛び退いた。

けどさ…

…今のって。

「…そんな逃げられるとは思ってなかったんだけど」

「えぇぇぇ!?日本語喋ってる!?」

そう。

隣に居た誰かさんは、日本語を発していたのだ。

これは情報収集のチャンスなのでは…?

そう思ったけど、声のトーンからしてその人は男の子。

関わるべきか少し悩む。

…男の子にはちょっとトラウマが。

だけど今言葉が通じるのはこの人だけだし…。

「あ、あの…えぇと…なんで喋れるんですか!!!」

「それはちょっと酷くない…?」


◇◇◇


「な…なるほど…はい」

「うん…なんか反応薄くない?別にいいんだけどさ…」

「いっ、いやそんなことないですと思います!!!」

「日本語も変だし…」

呆れたような目を向けてくるこの人。

…しょうがないじゃん接し方わからないんだから。

心のなかで文句を言いつつ、さっきの話を整理する。

えっと、この人…名前なんだっけ。

まあいいか。

とりあえずこの人も気付いたらここに居た人で、

私より多分先にここに来てた人…なのかな?

うん、多分そう。

なんかこの場所に詳しそうだったし。

「はぁ…まあいいか。とりあえず俺達は日本に帰らないといけないわけなんだけど。…結構厳しいと思うぞ」

メガネを拭きながら彼は言った。

「…なんで?」

そして私の質問に溜息を付き、説明を始める。

「さっき言ったけど、ここ地球じゃないからな。…話聞いてた?」

「聞いてたし…!!」

全く覚えてなかったけど、つい反論してしまう。

…だって聞いてなかったんだもん。

話す方に集中しすぎちゃったから仕方ないじゃん。

そもそも私お腹すいてるんだし。

…あれ?

ちょっとまって、そんなことどうでも良くない?

今さ、この人なんて言った?

「ここ、地球じゃ、ない…?」

「だからそう言ってるじゃん。…やっぱり話聞いてなかった…って…」

地球じゃない。

ここ、地球じゃない!?

待って待ってどういうこと!?

日本は!?

私の家は!?

どこ行っちゃったの!?

「…続きはお前が落ち着いてからにするから、とりあえず頭整理しろよ」

ここ歩いても家につかないの?

え、ほんとにどういうことなの!?


◇◇◇


「で、そろそろ落ち着いた?」

「た…ぶん。えぇ…うん…大丈夫…」

全く落ち着いてない。

むしろ混乱してる。

急に情報過多になったせいでほんとによくわからない。

けど、うん。

夢かもしれないから一回忘れよう。

「なんかまだ混乱してそうだけど、話続けるから。…俺が言いたかったのは、協力しない?ってことだし」

「キョウリョクシナイ?…それはどういう意味ですか…?」

「お前頭大丈夫?」

『キョウリョクシナイ?』なんていう知らない単語を前にして、更に私の混乱が広がる。

キョウリョク…えっと、協力?

で、シナイ…あ、しないってことか。

なるほど、協力したくないのね。

「…じゃあそういうことで、えっと…さよなら」

「待ってどうしてそうなって…あぁ、なるほど。さっきの協力しないっていうのは、協力しようって意味だから。しないって意味じゃないから」

さっきの言葉を訂正する彼。

…協力したくないんじゃなくて、協力したい?

私と?

いやそんなわけないから。

うん、何か別の意味があるに違いない。

「協力しよう…?ってどういう意味…?」

「はぁ…?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ノー・バイタリティ,ノン・ヒロイン! 猫墨海月 @nekosumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ