第一章 『受け入れたくない状況』
第一話 「街だった」
ヘトヘトになりながら歩いた夜の森は、永遠に続いているような気がした。
けれどしっかり終わりがあって。
朝の光と共に訪れたのは少し小さな街だった。
そう。
”街だった。”
あまりに絶望的な事実に思わずしゃがみこんでしまう。
西洋風の家というべきか、ファンタジー的な街並みというべきか…。
とにかく、私が全く知らない景色を”街”だと判断できたのは、それがファンタジーアニメなどで定番のものだったからというだけで。
実際には見たことないし、行く気もなかった景色なのだ。
加えて、私とは一生縁が無い…そう思っていた景色でもあるのに。
「…なんで、今ここにあるのかなぁ……」
こんな街並みを見てしまったら、状況を確定せざるを得ないじゃん。
…いやまだ可能性はあるけど。
少なくともここは私の家の近くじゃない。
というか山があった時点でここの近くに私の家はない。
私の家があるのは千葉県の山武市で―
しかもそこの海沿い地域。
山などあるわけがないのだ。
…そもそもこんな街並みは日本にないだろう。
つまりここは海外のどこか。
きっとそうだ。
どうやってここまで来たのかわからないけど、一日二日で帰れる訳が無い。
よね…。
私にはお金がない。
教養も人並み。
コミュニケーション能力なんて以てのほかだ。
……この状況でどうしろと。
「…やだなぁ…。あそこ行くの……」
街に行かないと状況の把握が遅れる。
つまり、家が遠のく。
けれども街に行くにはコミュ力が必要。
…コミュ力なんて中学の時に消えた私にはあまりに過酷な試練すぎる。
そんなこんなで…行かないとと行きたくないがせめぎ合ってしまい、かれこれ2時間はここで迷っている。
傍からみた私は森の出口で座り込むヤバいヤツだ。
…動かないとどうしようもないんだよなぁ。
行きたくないなぁ…。
空を見上げる。
分からないけど、多分早朝。
…まだいいよね?
◇◇◇
おそらくお昼時。
勇気を出した私は、街の大通りにいる。
―わけじゃなく、今私がいるのは大通りから少し外れた路地裏だ。
だって引きこもりにお昼の日差しはキツイもん。
私は今、路地裏の日陰に隠れながら日が沈むのを待っている。
早く沈まないかな…。
沈んだら沈んだで怖いんだけどな…。
耳を塞ぎながらうずくまる。
街の喧騒が怖かった。
…それは私が引きこもりだから、というだけでなく。
「○☆■・?」
「■▽◎。★」
純粋に知らない言語が怖い。というのもあった。
この言語が何か特定できればきっと、私がいる場所も分かるのだろう。
……英語しか知らない私にはとても理解できないけど。
分かるのは、日本語と英語以外の何かということだけだ。
多すぎて絞れやしない。
「はぁ………」
帰りたいな…。
こう、人が多くて賑やかなところにいると胸がぎゅっとする。
中学校の教室みたいだからかな。
ある意味あれも知らない言語だったし。
思い出した過去の話に顔をしかめ、もう一度耳を塞いだ。
…さっき見かけたお店の看板は、見たことない文字だったね。
気を紛らわすためにそう考える。
まあ気が紛れるわけじゃないんだけど。
絶望的な現状が浮き彫りになるだけだし…。
あー、ダメダメ…。
ネガティブ思考はダメだよってお姉ちゃんが言ってた。
大丈夫、きっと帰れるよね。
うん…。
ちょっと寝よう。
立ち上がり、一層暗いところを目指す。
昨日一睡もせずに歩いたからか、頭が痛い。
適当な場所を見つけ、もう一度座り込む。
さっきより遠のいた街の喧騒に安堵して、
私はそのまま眠りについた。
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