『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』2023年、switch、昭和後期の東京墨田区。本所七不思議と蘇りの秘術、真実を解き明かした時「あなた」は何をするべきなのか知る。

 今回は、テキストアドベンチャーを紹介します。


『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』2023年、switch、CERO:D(17歳以上対象)、スクウェア・エニックス



 舞台は昭和後期の東京墨田区。人々の間では、本所七不思議と蘇りの秘術に関する噂が流れていました。

 七不思議を調査して、その噂に迫ろうとしていた会社員の興家彰吾と友人の葉子。ある真夜中、七不思議の一つ「置いてけ堀」に縁のある錦糸堀公園を調べていた二人を異変が襲います。

 時を同じくして、他の七不思議に縁のある場所にいた人々――警察官の津詰徹生、主婦の志岐間春恵、高校生の逆﨑約子にも異変が起こります。

 現れたのは、七不思議に関わる今は亡き呪影たち。『声』は告げます。蘇りの秘術を得たければ、誰かを呪い殺せと。

 本所七不思議と呪いと蘇りの秘術。そして、かつてこの地で起こった誘拐事件と連続殺人事件。それぞれが繋がる先にある、この物語の真相とは。


 公式サイトによると、本作のジャンルは群像ホラーミステリーADVとのこと。

 あらすじだけ見ると、キャラクターたちが呪い合うホラーな側面が強く思えるかもしれませんが、どちらかというと本作はミステリー色が強いと思います。

 というのも設定上、主人公たちが呪いあえるのは夜の間だけ。物語の大半を占める日中は、主人公たちがそれぞれの目的のために、墨田区を歩き、調査し、やがてそれぞれの物語が一つに収束していきます。

 群像劇ですので、主人公は複数人います。同時刻に起きているそれぞれの物語を、プレイヤーが任意で選んで進めていきます。時には他のルートを進めないと、一つのルートが進められない場合もあるので、適宜切り替えていく感じでしょうか。

 選択肢はもちろんのこと、場所を移動して気になるところを調べることで物語を進めていきます。

 面白いのが本作、一部の場所では背景が360度存在します。背景が一枚絵ではなく、360度分あるということですね。主人公の目線になって、それぞれの場所をぐるりと見渡すことができるのです。2Dのゲームでありながら、3D的な操作ができるわけです。

 この操作を上手く利用していると思ったのが序盤。主人公とそれまで楽しそうに話していた相手が、不意に、主人公の背後を指差して、何も言わずに震えだすんです。主人公の後ろに何かがある。つまり、プレイヤーが振り返る動作をしないといけないんです。

 しかしそこは真夜中の公園、しかも、それまで二人はいわくつきの七不思議の話をしていたわけなので、後ろで何が起こっているのか怖いですよね。でも、振り返らないと話は進みません。要所要所にこういった操作が必要な場面があって、引き込まれました。

 背景といえば、作品内全体の絵作りといいますか、舞台が昭和後期であることを意識して、ブラウン管テレビで映しているような画面加工をしているのも良かったですね。音楽もどことなく昭和っぽいといいますか。そのような雰囲気づくりも素敵でした。


 また、主人公たちは七不思議の呪影によって呪いの力を手にするわけですが、そんな彼らは作内で呪主かしりぬしと呼ばれ、呪い殺すための条件は七不思議ごとに違います。

 最初に出会う「置いてけ堀」は、呪主がいる場から立ち去ろうとする者を溺死させる呪いです。「置いてけ堀」の内容に関連する死に方になるわけです。

 プレイ中、呪いの条件を満たすと画面上に「呪詛行使」のボタン表示が出るんですよ。押すか押さないか、迷います。プレイヤーが押せば、その瞬間呪いが発動し相手は死にます。呪主同士が出会えば、相手の条件を踏まないように振る舞わなければならないわけで、終盤では選択肢の一つ一つに慎重になる必要があるシーンも出てきます。この呪いの設定も引き込まれましたね。

 登場人物たちの掛け合いもとても良いです。主人公たちそれぞれに、行動を共にする相棒がいます。津詰には部下の襟尾純、逆﨑には同級生の黒鈴ミヲ。志岐間には探偵の櫂利飛太というふうに。ミステリーものなのに、時に緊張感のない掛け合いをする彼らですが、これがあるからこそ、本作は良い意味で重すぎない作品になっていると思います。

 というのも、扱っているのが七不思議というオカルト的なものですし、作内で出てくる連続殺人事件が結構凄惨なものなんですね。事件説明の文章だけで私は少しひいてしまいました。当然、呪い殺されたキャラの遺体も出てきますし、本作のCEROの高さはその辺りに起因していると思います。このような重さを、キャラたちの掛け合いが中和しています。

 そして、本作の特徴にメタ要素があります。本作は、案内人を名乗る謎の人物にプレイヤーが導かれるところから始まります。選択肢を間違えると時に主人公たちは死に至りますが、その際も案内人に「どうすればよかったのでしょうか」なんてふうに問いかけられます。この案内人には、明確にプレイヤーが認識されているわけですが、このメタ的な要素は謎解きでも何度か使用されます。

 実は本作、選択肢だけでなく、プレイヤーが行動をとることで物語の謎を解き、ストーリーを進めることがあります。ネタバレなので、詳しくは書きませんが、それぞれの謎が解けた時は楽しかったです。なるほどの連続でした。


 本作はゲームオーバーがある上、マルチエンディングになっています。なかにはバッドエンドと言っても良いくらい悲惨な事になるエンドもあります。しかし、全て回収すると、シナリオについて新たに見えてくる側面もあり面白かったです。

 そして、真エンディングに到達するための、最後の謎解きが本当に楽しかったです。それまで集めた手がかりから何をするべきなのか考えて、答えにたどり着いた時の嬉しさといったら。「この場面で、この場所にこれがあったのはそういうことか!」となりました。

 伏線が凄く良いんですよ。最初からちゃんと色々張ってあったんだなと。納得でした。

 ちなみに、ホラー要素ですが、一応、幽霊が突然出てくる的なびっくり要素が少しあります。序盤の真夜中パートに集中しているので、そこさえ越えれば大丈夫かと。真夜中の学校という、ホラーにありがちなベタと言えばベタな舞台もあるので、苦手な方はその辺り気をつけたほうがいいかもしれません。


 本作は単発作品ですが、タイトルには「FILE23」とあります。これもクリア後に用語集を見ると、その意味がわかるようになっています。

 意味がわかってから、続編が出てほしいなと強く思いました。そう感じるくらいに面白い作品でした。素晴らしかったです。




(参考サイト:スクウェア・エニックス本作公式サイト、ニンテンドー公式サイト本作商品ページ)


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