アドベンチャー

『Detroit: Become Human』2018年、ps4、選択を重ねた先にあるのは、アンドロイドたちと「あなた」の物語

 最初に何を取りあげるのか。ゲームが好きだからこそ、かなり悩みました。とりあえず、まずは近年に流行った作品であり、ゲーム初心者でも遊べるものが良いのではという結論に。

 ということでこちら。


『Detroit: Become Human』(デトロイト:ビカムヒューマン)2018年、ps4、CERO:D(17歳以上対象)、Quantic Dream



 2038年のアメリカ、デトロイト。人間と見紛うほど精巧なアンドロイドが、普及した近未来。警備員やベビーシッター、清掃員といった、様々な仕事用のアンドロイドがいて、家庭でアンドロイドを購入することも珍しくない、そんな世界。

 一方で、アンドロイドの登場で仕事を奪われた人間も多くおり、本作の社会はアンドロイドによる問題も抱えていました。

 そうして、ある日、ないはずの感情と意志を持ったアンドロイドが、人間を殺める事件が起こってしまいます。

 事件現場に現れたのは、捜査官のコナー。被害者の家族はコナーに駆け寄り、そして気づきます。

 コナーもアンドロイドなのだと。


 これが本作のプロローグです。

 物語の鍵を握るのは、変異体(deviant)――ないはずの感情と意志を持ったアンドロイド。


 本作の主人公は三人ですが、全員アンドロイドです。シングルファザーの家で家政婦としての役割を果たす「カーラ」、一人暮らしの老画家の世話をする「マーカス」、そして、捜査官として行動する最新型アンドロイド「コナー」。

 プレイヤーが三人を操作して、三人の行動や会話を選択し、時にはQTE(簡単に言うと、タイミングよくボタンを押す操作のこと)で、彼らの窮地を乗り越えるアクションアドベンチャーゲームです。


 各チャプターごとに、三人の主人公を代わる代わる操作することで物語は進みますが、本作の特徴は、物語の分岐数と没入感でしょうか。

 物語の分岐がとにかく多いです。プロローグのアンドロイドによる人間殺害事件だけでも、五パターンくらいに分岐するはずです。

 あるチャプターでの選択や結果が、後のチャプターに影響を与えることもあります(例:昨晩主人公が泊まった場所によって、次のチャプターの開始場所や行動に変化が起こる)。なんなら、ある選択をしないと会えないサブキャラもいますし、時には条件を満たすとチャプター1個丸ごとカットなんてこともあります。


 「好感度」と「世論」、さらに「ソフトウェアの異常」という三つの要素も分岐に関わります。

 「好感度」は、周囲の人物が各主人公に対して持つ好感度のことです。ちなみに、好感度を有するキャラクターは、人間もいれば変異体もいます。プレイヤーの行動によって、好感度は上下しますが、この値によって物語が変化します。時には、ある人物から主人公が撃たれるのか撃たれないのか、そんな重要な分岐の鍵にも好感度はなり得ます。好感度が低いと撃たれるわけです。

 「世論」は、人間がアンドロイドに対して持つ世論のことです。アンドロイドが大きな事件を起こすと、アンドロイドに対して懐疑的な世論になったり、アンドロイドが人間を助けると友好的な世論に傾いたりします。世論は、物語の終盤で大きな影響力を持ちます。

 最後に、「ソフトウェアの異常」。これは、コナーだけが有する要素で、コナーの行動によって上下します。この要素だけは、説明もないので何を意味するのか最初は謎ですが、物語を進めて行くと、なるほど、だとわかるようになっているのが面白いです。

 この三つの要素が物語の展開にどのように影響するのか、初回プレイ時は全く分かりません。それぞれの要素が上下する度に、ドキドキしていました。


 最終的に、本作はエンディングを迎えるわけですが、その分岐数は本当に多く、到達したプレイヤーが数%というエンディングも中にはあります。

 そう、この作品、チャプターが終わるとフローチャートが見れるのですが、ネットに繋いでいると、世界中のプレイヤーがどの行動を選んだのか、割合が見れるんです。見てみると、結構面白いですよ。


 そして没入感。

 主人公の細かな動作に合わせて操作ができます。窓を開けるとか、物を取るとか、お皿を洗うとか、その度にプレイヤーがスティックや各種ボタンで操作します。主人公に感情移入しやすくなる要因の一つだと思います。

 本作は、外国の俳優さんのモーションをキャプチャーして製作しており、各キャラのフェイシャルモデルとしても取り込んでいます。

 そのためか、人物の動きもCGもとても綺麗で、近未来の世界をリアルに感じられます。数年経った今でも十分なクオリティではないかと。なお、声の演技もモーションを担当した俳優さんが務めているので、英語音声にすれば洋画のように楽しめます。もちろん、日本の声優さんによる日本語音声もあるのでお好みで。


 各選択肢には、時間制限が設けられているので、焦る時は焦ります。主人公がピンチの際は、選択肢の文字も震えるという演出があるのでさらに焦ります。慌てて押し間違いしたり、とっさに選んだりした選択が予期せぬ分岐に繋がることも。

 私が序盤で特に焦ったのは、カーラとコナーが出会うチャプター。

 カーラは物語の展開で、追われる身になるのですが、カーラを追う警察の中にコナーがいるわけです。その二人が出会ってしまうわけですから、プレイヤーとしては焦ります。このチャプターは二人を交互に操作するので、なおさら焦ります。

 コナーが、カーラの隠れている場所を捜査するシーンでは、プレイヤーはカーラがどこにいるのか知っているので「ヤバい」となりました。しかし、コナーの任務を成功させてあげたいとも思うわけで。本当に困りました。


 なお、プレイヤーの行動で、主要キャラが死ぬこともあります(アンドロイドにも破壊という死があります)。その点ではシビアなゲームですね。

 本作の難易度は二つあり、普通の難易度はQTEを数回間違えた程度では問題なく、主人公格が死ににくいです。ゲーム初心者や初回プレイ時はこちらで良いと思います。

 二周目など慣れてきた頃だと、難しい難易度の方が楽しいと思います。こちらの方が一つ一つの操作が難しくなる分、没入感が増す気がします。


 ゲーム内のボーナスコンテンツが多いのも魅力でした。

 ゲームを進めるともらえるポイントを消費すると、開発資料や俳優さんたちのインタビュー動画などが閲覧できるようになるのですが、開発の裏側を知れて面白いです。主人公が三人だからゲーム音楽の作曲も三人の方に頼んでいる、というエピソードが特に興味深かったです。


 最後に、本作は対象年齢が高めですが、それは、アンドロイドが普及した近未来をリアルに描いているからこそですね。未来におけるドラッグや性的な描写もありますし、死体も出てきますし時には銃撃戦も展開されます。流血描写はCERO:Dであることを考えると抑えめな方だと思いますが、あるにはあります。アンドロイドにもブルーブラッドと呼ばれる青色の液体が流れている設定なので、青い血が舞う時もあります。

 そういった点が気にならなければ大丈夫でしょう。


 私はこの作品、最初から最後までの通しプレイでは二周、チャプターによっては三回以上プレイしているチャプターもありますが、それでも見ていないイベントが当たり前に存在するのが本作の凄いところです。

 ちなみに、私の最後のデータは主人公全員が特定のチャプターまでに死亡していると見ることができるエンディングを迎えました(好奇心で見ましたが、そこそこ絶望感のあるエンディングです)。このエンディングを見たときの、なんとも言えない感情は忘れられません。


 でも、やっぱり、一週目には勝てないなと感じました。

 どの選択がどんな展開につながるのか全く分からなかったからこそ、一週目の、三人とわたしの物語は、本当にかけがえのないものでした。

 記憶を消せるなら、もう一度記憶を消してプレイしたい、このゲームはそう思う作品の一つです。




(参考サイト:プレイステーション公式サイト、本作商品ページ) 

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