第31話 優の父親

優の指先が語ってくれる。

本当に大事な人だと、大切にしたいと。

隅から隅まで洗われた僕は、白いガウンを着せてもらうと、前回服を脱いだ場所にあるドライヤーで髪を乾かしてもらった。

その間、お互いに話をすることはなかった。

「……続きは?」

僕がおそるおそる声をかけると、優はふーっと息を吐いた。

「嫌われる覚悟……。憎まれる覚悟は」

「ちょ、ちょっと待って! 僕が優を嫌うわけ」

「今回ばかりは駄目だと思っ……」

「ないない! とにかく話してみて!」

ぶんぶん首を振る僕に、話しにくそうに眉を寄せる。

「……はい」


「ボクの父親が誰かわかりますか?」

「え? 父親? 会ったことあった……?」

「ですよね……」

どういうことなのだろう。

(今の話に優の父親なんて出てきた……?)

首を傾げていると、覚悟を決めたのか、優はしっかりと僕を見つめてきた。

「実がずっと父親だと思っている人は、ボクの父親なんです……」

「……? え?」

動揺で頭が真っ白だ。

「ボクの父と実のお母様は愛人関係でした……。それをボクは知っていたけど、実は知りませんでした」

「ちょ……」

僕が口を挟もうとするのを、優は手のひらで塞いで続けた。

「ボクが言ったんです。再婚するなら、実に会いたいって」

「……」

「会ってすぐに知りました。実は本当のお父様に暴力を受けていたって」

「……僕が」

僕の記憶の中で暴力をふるっていたのは家庭教師だ。

それは単なる暴力じゃない。触るだけといえど性的なものだった。

「初日はピクニックで、それから少しずつ会う機会も増えて、だんだんボクらは仲良くなっていきました。そして、離婚届を出すと、引っぱたかれはしたけど、あまりにもあっさり受け入れてもらえたそうです。実のお父様もまた離婚したかったようで」

「あっさり……?」

「はい。ですが……」

そこからはとてもじゃないけど現実に思えなかった。

「1日だけ、実と最後に話がしたいって」

全身がぞわぞわっと総毛だった。

口の中が渇いて感じる。

「実? 大丈夫ですか……?」

「それから……?」


震える僕の両手をギュッと握りしめると、優はギリッと唇を噛んだ。そして……。

「その日、あなたを犯そうとしました」

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