第30話 価値のない人間

「ボクはあなたの……実の傍にいられるような価値のない人間なんです」

震えながら、優が吐きだす。


優が自分を責めるのは見たくなかった。

でも、吐き出したいものがあるなら、そうさせたかった。


「何にそんな囚われてるんだよ?」

「……それは」

捨てられた子犬のようだと思う。

声だけなのに、溢れ出て来る不安。


「言いたくないなら別に」

でも嫌がることをしたいわけでもない。

「い……っ!」

「言いなよ。全部聞くから」


ゴクリと唾を飲む音がした。

緊張が伝わってくる。

「……言います。聞いてくださるなら」

だからヨシヨシと抱きしめたまま、頭を撫でてやる。

「ボクのせいなんです……」

なのに、優の声は沈んでいってしまう。


「今回のは僕の」

すぐにフォローしようとしたけど、手で胸をおされて動揺する。

「それじゃなくて! その……」

「他になにがあるっけ」

思い出そうとしても、それ以外に浮かばない。

「実の両親のことです」

「!」

急に両親の話が出たので動揺した。

ぶるぶるっと震えた僕に、優が立ち上がるような気配。

ドアを開けて、しばらくするとまた戻ってきて、バスタオルをかけてくれたようだ。

小さなタオルも一緒なのか、僕の体についた唾液やら白濁液をぬぐってくれる。

「……ボクのせいで亡くなったんです」

「父さんのこと?」

「いいえ」

「……え?」

ぐいっと目隠しを外されて、びっくりする。

「シャワールームに行きましょう。このままでは風邪をひいてしまう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る