第29話 罪人と慰め(★)

それから先の話は聞けなかった。

その部屋のドアを、誰かが叩いたからだ。

「響さん、「姫」は帰りました」

「……優くん、入ってきなさい」

優は僕の姿を見て、不快ではなく悲しみの表情を浮かべた。

「その顔が見れてよかったよ。俺は満足した」

「……」

響さんは、そのあと部屋を出て、響さんの言葉で俯いていた優は、ズボンを脱がされた状態で、ドロドロに濡れた僕を見た。

ギリッと唇を噛む姿を見ていたら、怒る気も失せてしまう。

「……僕が優に怪我させたから、いいよ。もう」

「それじゃボクの気がおさまりません!」

瞳の中に映る自分にハッとした優は、すぐに僕の前にしゃがんで、僕を上からではなく、正面から見つめる。

「どうして?」

「だって……!」

タオルで手はぬぐわれてはいたけど、それだけだ。

シャワーも浴びてはいない。

それがいたたまれなかったのかもしれない。

「……いいよ。僕がいけない」

「実……」

優の手が、僕を抱きしめかけたけど、触れる寸前で止まる。

「シャワー浴びて帰ろうか」


何か言いたげな優の体を押しのけて、僕は立ち上がる。

でも、その部屋を出ることは出来なかった。

「!?」

後ろから抱きすくめられて、それは違うだろうとはねのけようとした。でも体は、ドアに押し付けられ、文句を言おうと開いた唇に、優の唇が重なる。強引に押し付けられて、一度離れたそれは、僕がまた言葉を紡ごうとした時に、割り入ってきて息が出来ない。

「……っん、ううっ」

キスされたことなんて一度もない。

もしかしたらカウントしてないだけであるかもしれないけど、でも、声を発する意志がなくなるまでしてきて、足がわななき、疼いてしまう。

「ボクはあなたが好きなんです」

「……」

ドアに押し付けられたまま、至近距離で目が合い、外そうとする度、はむっと挟まれたり、舌でつつかれたり……。

「だから」

「……だから、こういうことしたいの?」

下はもうはりつめて、少しでも動くとイクかもしれない。

でも、それでも聞いておきたかった。

「僕に性欲でもあるの? 優」

ビクッと優が強張る。

「じゃあ」

絶交だね。そうつむごうとした。

でも、首筋から肩にかけて、スルッと撫でられて、カリカリと乳首を指の腹でひっかかれ、内腿の間に、膝をぐっと押し込まれる。その後、引き寄せられた腰は、優の昂りを感じて、熱を帯び始める。収まりかけてた疼きをつかまれて、嫌だと首を振る。でも、輪を作った指先が動き出すと、得体のしれない欲を自分も感じてるのがわかった。

「……実、ボクは触りたい」

首筋から鎖骨、乳首から下腹、降りていく唇が、いきそうになったそれを口にくわえて、なめたり、吸ったり、しごいたり。

「な、んで……」

もう少しで衝動を吐きだせると気を緩ませた時、体を裏返らされて、えっと思う。

「別の誰かが実に触れたのが許せない」

「……え、ちょ……っ! 優、そこにそんなの入らないって……!」

服越しに押し当てられて、ひっとのけぞる。

「気持ちよくなってほしい……です」

かすれた声で耳を塞がれる。

「バカ! もう挿れんな! 指、やだ……っ」

いきそうなのを止められただけじゃない。

指を一本、時間をかけて2本と、出し入れされて、羞恥心で体がぶるぶる震える。

「……っあ!」

変な声が出て、性を吐き出し、力を抜いた中に、大きな圧迫感。

「……っえ、あ! んんっ、あ、ちょ……! や、何入れて……! 優、やだ、優、やだって……! んん」

体が揺さぶられる。

自分がなにをされているのかわからない。

(なにこれ……っ)

気持ち悪いものだと頭ではわかるのに、頭の中が誤認してしまう。

なぜだろう。

どうして嬉しいとか愛おしいなんて感じるんだろう。

(繋がって……っ)

わけがわからないまま繋がって、性を一緒にはいた。


目を開けたら、また椅子に座っていて、言葉を発しようとすると、目隠しをされた。

「……優?」


優は震える声で言った。

「こんな僕を見ないでください……っ」


泣いているんだろう。

小さかったあの頃のように。


「一度くらいいいよ」

「……でもボクは!」


暗闇の中、優を引き寄せる。

目隠し越しに泣いている優が、ほんと、どうしようもなく可哀そうだし、それがなぜか、愛おしくてたまらなかった。

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