第21話 裏返し

僕が食べ終わったあと、優は目隠しカフェの名刺を裏返しのままテーブルの上に置き去りにした。

普通、名刺って相手に渡すものだと思う。

でも、その名刺は僕の手には渡らなかった。

なぜなら差し出された名刺を見ても、僕が視線を彷徨わせて、いつまでも受け取らなかったから、動揺した優が、両手で支えられず、ヒラヒラとテーブルの上に落としたから。

落ちる時、それは蝶のようにはばたきながら裏返しに落ちた。

新しい名刺を出そうとする優に、いらないと言いたげな静止のポーズを取る。

「また必要だったら言ってください」

「……え? もう行かない、けど……」

「そ、そうだとしても……。また、もし行きたくなったら……」

声が淋しそうで、戸惑っているようでもあって、だから頭の中で、優に何度も「ごめん」をくり返す。

「で、でも……、ちゃんとしたの受けてみたい気もするから、あと1回は行くかもだけど」

「ほんとですか!?」

明らかに喜んだ声だ。

優の目が輝き、すぐにケモミミでもあったかのようにシュンとしてしまう。

「ごめん、なさい」

そう何度も謝らなくていいのに、とは思うけど、人が人に謝罪できるのは、それだけ相手を思ってるからだって思うから、嬉しくも思うんだ。

(僕の方がごめんなのに)

僕はそれがわかっていながら、優に謝れない。

プライドが変に高くて、いつも優にしてもらってばかり。

(優しさもごめんも貰ってばっか……。変わりたいのにな)

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