第14話 不確かな快楽(★)

「もう目隠ししてもいいですか……?」

黑い目隠しを両手で引っ張ったまま、じっと見下ろしてくる優。

「……いいよ。早くして」

まるで水に浸すように、まるで水ににじむようにして、目隠しが肌に吸い付いていく。

今度はどうにか声に出そうになるのを我慢した。

でも、体がぶるっと震えて、文句を言おうと顔を上げると、下唇に吐息と弾力を感じた気がした。

(え……? なに?)

一瞬、それがなにかわからない。

「お……ま」

「どうしました?」

今度は上唇に感じた熱。

(キス……? え、そんな)

でも、そんなことはしないだろうと思い直す。

ここは優の職場なんだからと……。

「あ……あ、いや……っ」

不安で頭がおかしくなりそうだ。

「クリーム塗りますね。マッサージ用の」

左頬にペタリッ、右頬にペタリッ、つぶつぶの入った冷たいジェルが塗られる感触。

「……あ、ああ……」

(……クリームだよな?)

なにもかもが、次第に信じられなくなっていく。

でも、止めるのもおかしいし、戸惑い続ける体を持て余す。

「リラックスする為に、首に香りつけますね」

甘くて優しい苺の香りを首筋に塗りこむようにされ、少し揉まれる。

途端、ふわっと眠気がきて、一瞬、こくりとうたた寝してしまう。

「……んー」

一瞬の隙ができた。

「疲れていたんですね」

その間に、何か小さく囁かれながら頭をマッサージされて、眠気の後、快楽が一気に下腹を駆け抜けた。

「んあっ!」

変な声が出て、恥ずかしくて内腿をすり合わせる。

(ここはそんな店じゃないのに……!)

「……大丈夫ですよ」

「なに……が」

あざ笑うような声。

それを優が発していると思うと、カッとなる。

「みんな、そうですから……」

でも、煽られたように感じたのは気のせいだったのか、すぐに優しく頭を撫でられて戸惑う。

「優……」

不安でたまらない声を発してしまって、これから優とどう接したらいいかも迷う。

「……夢を見ていたのですか?」

でも、すぐに目隠しを外されて、えってなる。

手を差し伸べられて椅子から立ち上がると、体がすごく軽い。

頭と首を揉みほぐされたからかもしれない。

(え? こんなに楽に……)

動揺で頭がまわらない。

「今回は初回なので、うとうとするくらいがいいですね」

優に手をひかれ、僕らはその部屋を出た。

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