第37話思い出シリーズ3

あれは18歳の時の話し。

僕は生まれて初めて、東京に出た。大学受験のためだ。

羽田空港に、母方の親戚の叔母ちゃんと、また、別の親戚夫婦が出迎えてくれた。


僕は右も左も分からずに、電車の切符を買って、親戚と夕ご飯を食べた。


和食の料理屋さんで、僕は財布に2万円しか無いから、安いうどんを注文した。

すると、親戚の叔母ちゃんが、

「明日は、受験なんだからもっと高いモノを食べなさい。天麩羅御膳を注文してあげる」

と、言う。


まだ、青年の僕は3500円もする天麩羅御膳は目眩がする程高価な定食に感じたものだった。

僕は未成年だから、お酒は飲まないからウーロン茶を飲んだ。

叔父さんが、

「トリス君は、何学部を受験するの?」

「法学部です」

「何でね?」

「警察官か、教諭になりたいからです」

と、答えると叔父さんは、

「やはり、血筋だなぁ」

と、親類が言い出す。うちの家系は公務員が多い。

警察官、教師、役所と。


いよいよ、天麩羅御膳が運ばれてきた。

めちゃくちゃ美味しく感じた。

えびの天麩羅が、鹿児島では無いくらいの大きさ。

刺し身もセット。

将来、僕も甥っ子姪っ子が出来たら、同じ事をしようと誓ったモノであった。

時間が早かったので、受験会場を確かめてから、千葉の叔母ちゃんちに泊まった。


それ以後の記憶は、受験の思い出でいっぱいになり忘れた。

ただ、帰りに叔母ちゃんがスニーカーを買ってくれた。

凄く嬉しかった。

「都会はね、電車とバスが乗りこなせるようになったら、一人前だよ」

と、言われた事を記憶している。


あれから、27年。

羽田空港に迎えに来てくれた、叔母ちゃん、親戚夫婦、皆さん亡くなった。

あの頃、60代では無かっただろうか?


僕も甥っ子姪っ子がいる。名古屋の叔父さんと呼ばれている。

去年、家族で名古屋に来て、うちの家族と名所巡りをした。

熱田神宮や名古屋城、世界の山ちゃんは、嫁さんセレクトで鹿児島の連中が喜んだ。

きしめん、味噌カツ、土手煮を美味しい美味しいと食べていた。


僕は目が悪いので、サングラスを掛けていたが、田舎にサングラスの人は少ないと言うよりいなくて、いても盲目の方しかサングラスしないので、甥っ子姪っ子は初めは怖がっていた。

だけど、呑んで面白い事をして、お小遣いを渡したら、笑顔で帰って行った。


食は改めて、大事で貴重なものだと思っている。


あの時の、叔母ちゃん、親戚夫婦には感謝しています。

あの時誓った、警察官も教師にもなれなかったけど、楽しく生きています。

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