第32話 エピローグ ~不老不死の手掛かり~

「ふはははは! そうか、そうか! それは良い! 今度、お前たちの子供が生まれたなら俺からも祝福を授けてやる! だから、絶対に俺を呼ぶが良い!」


「はいはい、分かったからもう蜂蜜ジュースを飲むのは辞めて頂戴。このままだと、ダーリンと私の分がなくなるでしょ?」


「申し訳ないが、私も頂きたい。すっかり、このジュースの虜になってしまったようだ」


「全く、言った傍からこれじゃない! ナオト、何とかして!」


「まあまあ、せっかく結婚祝いをしてくれるって言うんだから良いでしょ」


「もう、ダーリンったら甘いんだから。でも、そんなところが好き!」


「あなたたちの方が、よほど甘い雰囲気を醸し出している気がするのは気のせいか……?」


 完全に宴会状態となっているこれは何事かと言えば、今は外に食卓を持って来てアウスとフローラに結婚祝いをしてもらっているところだった。


「いやあ、済まない! つい興が乗り過ぎて本気で殺してしまうところだった。もしも、あの攻撃が止められなければ普通に俺が盾になっていたところだったのだが……。まさか打ち消されるとは思わなかった。俺も、まだまだ修行が足りんな!」


「あはは……。でも、元はと言えば、魔王さんとフローラさんが僕たちの私生活を覗き見たがのがいけないんですからね?」


「そうよ! 二人とも反省して頂戴!」


「「すみませんでした」」


「さあ、今日はご馳走を作ったんだからじゃんじゃん食べてよね!」


「悪魔の森のスペシャルコースですから、堪能してくださいね」


 食卓の上に並べられる料理のラインナップと言ったら、実に奇妙奇天烈な見た目のものばかり。最初はフローラも戸惑っていたが、味を占めるや否やパクパクと食べ進めていた。


 因みに、今回の料理に毒は一つも入っていないので安心してほしい。


「だが、比例は礼を以て詫びねばならん。そこで、俺からはとっておきの話をしてやろう。それ即ち、不老不死の霊薬についてだ」


「「不老不死の霊薬!?」」


 直人とシルヴィアは魔王の切り出した話に早くも飛びついた。花よりも団子よりも、ずっと大事な将来のことに関わる話となれば致し方ないことだ。


「そうだ。この世界『ニュー』の各地に散らばるダンジョンを最下層まで攻略し、その証を集めてとある場所に行くと手に入るらしい。だが、これは眉唾過ぎて真実味がなく、また誰一人として全てのダンジョンを攻略した者がいないため証明しようもない」


「ただの噂ってわけ?」


「そうとも限らん。ダンジョンは古来より存在する遺産が眠るとも言われている。それが何なのか、俺も知らん」


「私も俄かには信じられないが……。魔王くらい強いなら攻略できそうなものだが、それだと駄目なのか?」


「ダンジョンに挑戦するためには、何らかの条件を満たさなければならないと言われている。最初のダンジョンに入ろうとしたとき、俺はその資格が無かったらしく追い出されてしまってな。以来、ダンジョン攻略に挑んだことはない」


「ダンジョンの資格か……。確か、最初のダンジョンに入るための資格は冒険者であることだった気がするな。魔王は冒険者ではないから、弾きだされたのだろう」


「冒険者になれば、俺でも挑めたのか」


「辞めておけ。魔王が一端の冒険者をやってるなんて知れたら大騒ぎになるだろう」


「む、そういうものなのか……」


 アウスはがっかりしながら悔しさを流すように蜂蜜ジュースを飲み干した。もっとおかわりを要求しようとしたが、シルヴィアが「もう駄目です」と首を振ったためしゅんとなってしまった。


「まあ、俺からの情報はこれくらいだな。最初のダンジョンは、人族の領域にあるオルレアンだ。まずはここを目指すといい」


「ありがとう、貴重な情報を教えてくれて」


「礼には及ばん。これくらいのことはしないと、つり合いが取れんからな。それはそうと、人族の娘も何かやったらどうだ?」


「そのことなのだが、実は持って来ているのだ。これを二人に渡したい」


 フローラは鞄の中からシルバーのケースを取り出すと、それをパカッと開いて見せた。中にはペンダントが二つ入っていて、黄金色のグリフォンのような紋章が刻まれていた。


「これは、アノマリス王国があなたたちの身分を証明するという証だ。これがあれば、大抵の国なら検問なしで通過できる。また、これを使えば私たち宮廷魔術師団が何かと二人を助けられるだろう。何かあったら、遠慮なく頼って欲しい」


「ありがとう、こんなにも貴重な物をくれて。大事に使わせてもらうわ」


「僕からも礼を言わせて欲しい。本当にありがとう」


「礼と言うなら、まずは蜂蜜ジュースだ! もっと持ってくるが良い!」


「私はもう少し料理を頂こうかな」


「はいはい、分かったから待ってなさい!」


 シルヴィアは一度席を離れると、その後を直人が追ってきた。二人は家の中に入ると、自然とキスを交わして微笑み合う。


「何だか、変な友人ができちゃったわね」


「そうだね。でも、この出会いもきっと何かの縁なんだろうね。ずっと、この森で生活するのかもって思ってたところもあったからさ。不老不死の霊薬の情報は、僕たちにとっては見逃せないものだよね」


「そうね。本当にあるのなら、私たちは二人で永遠に添い遂げたいもの」


「そのためにも」


「まずはダンジョン攻略!」


「「でも、その前に!」」


 二人は自分たちのコップに蜂蜜ジュースを注ぎ、そしてこつんと飲み口を当てた。


「「私たちのこれからに、乾杯!」」

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現代日本から召喚された僕が、異世界エルフの「嫁」になった話 黒ノ時計 @EnigumaP

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