第3話 鍛冶屋の洗礼

-side フィル-



 --カンカンカン!

 --カンカンカン!



 この町--アゼルナ最大の鍛治工房には、沢山の職人さんがいる。仕事場ならではの熱気と、金属を打つ音が聞こえる。



「父さん、ただいま」

「おー!フィル!おかえり、新聞見たぞ〜!」



 父--ライルが出迎えてくれる。

 さっきから知り合い何人かに会ったがみんな口を揃えて新聞みたぞ〜と言う。

 別に嫌な視線は感じない。どちらかというと心配して仕事を紹介しようか?と言ってくれた人がほとんどである。

 クランにいた時は自分に人脈があるとか微塵にも思わなかったが、俺は案外、人に恵まれているようだ。こんな事があっても周りに意見に左右されず、俺だけを見て信頼してくれる人にとても感謝だ。

 こんな感じで他の職人さんたちも暖かく迎えてくれる。鍛冶屋の職人さんたちは大体みんな顔見知りだ。



「そうだ!フィル!久々に帰ってきたんだったら、新人の相手してくれ!」

「帰って早々、新人の洗礼をやらされそうになってる!?」

「なんだよ?悪いか?」

「ひ、開き直った……」



 ここの家事工房では新人に武器性能を試す戦う役をやらせている。

 鍛冶屋が武器を扱えなくてどうするという親方--父親の考えである。



 俺がそこそこ平均の冒険者並に戦えるというのは、実家の鍛冶屋で沢山実践を積んできたからである。それなりに武器を使って戦うし、それなりの冒険者並の実力者が揃っている。



「最初の見習いはこの2人だ」



 見ると真っ白い耳がついている獣人の少年少女がいた。



「また、拾ったのか」

「まあな。ただ、こいつらは俺が素質ありと判断したからここにいるんだ」

「ふーん」



 獣人はこの国では地位が低い。おそらく、どっかの国の大商人か貴族の奴隷だったのを奪ったのだろう。両方とも美しい見た目をしているので、狙われやすい事この上ない。

 普段、罪のない奴隷を多く拾ってくる父が保護を申し出るのも頷ける。



「鑑定……ふむふむ」



 戦う前に鑑定させて貰ったが、確かに鍛治の才能があり、戦闘経験も豊富そうだ。

 元々、獣人という事で身体能力が高く、魔法は苦手な感じだな。



「両者位置についた事を確認!初め……!」



 双子が素早く別方向から移動してくる。

 中々戦い慣れてそうだ。

 


「えいっ!」

「ほっ……と!」



 早速、カウンターで蹴りを入れられる。

 なかなかの力の強さだ。動きも悪くない。

 正直、魔法を使えば1発なのだがそれだとただの試合になってしまう。

 洗礼とはいえ、あくまでも新人訓練の一種なので、この子たちが次のステップに行くにはどうするのかを考えながら相手をする。

 物理でしっかりと対抗した方がいいのだ。



「「えいっ!」」



 --ヒュン!

 強い。だが。



「動き方が素直すぎる!!」



 --ガシッ!



 俺は両方の足を捕まえると、そのまま床へ投げた。



「「ええーー」」

「なにその不満そうな倒れ方?」



 --ぴよぴよ……



「そこまで--!!」



 2人が戦闘不能になったところで試合終了だそうだ。調子くるわされる2人だった。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 その後も3人と相手させてもらった。

 元魔法使いの女性、斧使いのドワーフ、戦闘経験の薄そうな若い男性の家事見習い。



 どれも簡単に倒せた。まあ、クランとはいえ、冒険者クラン職員としては当たり前なのだが。



「流石だな!フィル!また強くなっている」



 父上や他の職人さんたちが褒めてくれる。



「いえいえ、これくらい冒険者ギルドで働いていた者なら当然です」



 人気クランの職員だったら誰でも出来る基本的な事だとは思う。



「普通は冒険者クランの職員なんてなれないんだけどな。倍率何倍だ?あれ?」

「確か、100倍とかって新聞には書いてありました」



 そんなだったか?いや、まあそうか。

 冒険者はともかく、クラン職員は安定しているし、ほとんど潰れることのない組織で働けることもあって人気だ。

 国からも優遇される組織で、いざとなれば国外でも働ける。職員とはいえ危険であるため、比較的給料も高い。



「はえー!そんな高い倍率をクリア出来ていただけでもすげーわ!流石坊ちゃん」

「やめてくれ……、もうクランをクビになった時点でクランの職員ではないんだから。それより、どうしたんだ?俺を呼び出して」

「ああ、そうだ。これをおまえさんに見て欲しいんだ」



 父上が奥から出してきた。

 うっすら発光していて神秘的なオーラをまとっている。



「これは……、卵?」

「そうだ。そこの双子が森の奥から見つけてきたらしい」

「森の奥というと、あの湖ですか。なかなか色々な逸話があって、神秘的な空間なところ」

「そうだ。なんか特別な卵だったら嫌だから、とりあえず、念の為うちで預かっているのだが、どうせ帰ったから暇だろう?ちょっと面倒見てくれないか?」

「それはいいけど……、それだけ?」

「ああ、いきなり働かせて悪かったが、まずはしばらくお前は休め。今回のことで大分疲れただろう。今晩は飯も豪華だ」

「おっ……!やったー!」



 不思議な卵を受け取った俺は、温かい出迎えを受けながら、休むために再び実家へと帰るのだった。



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