第4話 銀の卵ですか?金の卵ですか?

-side フィル-




「しかし、魔物の卵かー。なんの卵なんだろうな?これ?」



 豪華な飯を食べ終わったあと、件の湖に向かう。目の前に転がる神秘的な卵を手に取る。銀色に輝くその卵は冷たく硬い。表面に微かな魔力を帯びているのがわかる。



「なんでこんな場所に落ちていたんだろうな……?」



 卵の表面に浮かぶ不規則な模様に指を滑らせながら、この卵について考える。

 普通、魔物をテイムするのは難しい。人間が魔物を従わせるには、魔物がその人間の魔力を気に入るかどうか。運ゲーだ。だが、卵の状態で定期的に魔力を与えてやれば、生まれた瞬間からテイムできる。



「素行の良い魔物だったら、良いんだけどな」



 卵の状態では、どんな個体が生まれるかはわからない。力強い魔物が生まれるかもしれないが、逆に手に負えないほどの暴れん坊が孵る可能性もある。それもまた、運ゲーである。

 それに、魔物の卵を孵すには時間と手間もしくは、お金がかかる。定期的に魔力を注ぎ込み、卵の成長を見守らなければならない。孵った魔物が自分に従うかどうかもわからない上に、コストもかかる。考えれば考えるほど、コスパが悪い気がしてきた。まあ、今は幸い、時間もあるし、失職手当も道具もある。

 卵から魔物をすぐに孵しても問題はないだろう。

 --と、そんな風に思案しているうちに、いつの間にか湖のほとりに到着。

 久しぶりにこの湖を訪れたが、まったく変わっていない。澄んだ水面は月の光を反射し、穏やかな波紋が広がっている。



「変わってないなあ、この湖」



 俺は立ち止まり、しばらく湖を眺めていた。湖のほとりは静かで、風が水面をかすかに揺らしている。



  --ビュオオオオオ!



「……!!」



 次の瞬間、湖面に異変が起こった。水が不自然に揺れ、光が立ち上る。



「は--?あっ……!」



 手に持っていた卵が湖に滑り落ちてしまった。

 湖の水が渦を巻き、その中から美しい光が現れた。目の前に現れたのは、湖に住む精霊たちが集まった形--いや、もっと大きな力を感じる。その存在は俺に向かってゆっくりと話しかける。



「私は全ての精霊を司る精霊王エレメンタルです」



 名乗ってもいないのに勝手に名乗ってきた。いやまあ、ありがたいんだけど。

 目の前の輝く精霊は、俺に向かって問いかける。



「あなたが落としたのは銀の卵ですか?それとも金の卵ですか?」

「銀」



 特に迷うこともない。

 わざわざ嘘をつく必要もないだろうと思ってそう答える。



「……」

「…………」



 しばしの静寂が訪れ、お互い見つめ合う。



「ブラーボォォォォォォーー!!」



 突然、その存在が大声で歓喜の叫びをあげた。思わず後ずさる。輝く笑顔を浮かべた存在は、満足げに両手を広げて言った。



「正直もののあなたには、両方とも差し上げます。我が子をよろしく頼みます」

「ええ……いらないんだけど……」



 正直、いきなりすぎて、思考が追いつかないが、魔物ガチャは一回でいい。

 二つ貰ってどっちもハズレだった場合、手に負えなかったりしそうだからだ。



「まあまあ、そう言わずに」



 目の前に銀の卵と金の卵が差し出された--もとい押し付けられた。戸惑いながらも、ありがたくそれを受け取る。

 銀の卵も神秘的だが、金の卵も特別な輝きを放っており、手に取ると微かに魔力が波打つのが感じられる。



「その金の卵の中身は“ダンジョン工房の種”です。その名の通り、ダンジョン型の工房です。お前の鍛治のレベルに応じて成長し、豊富な資源を提供するしょう。多分」

「はあ--?やっぱり押し付け……」

「きっと!多分!今のあなたが必要そうな顔をしています!きっと、とてもあなたの役に立ちます!フハハハハハ!」

「あ、ありがとうございます」



 意味がよく分からないが、お礼を言う。

 勢いで押し切られてしまった。



「ではまた、どこかで」



 その言葉を最後に、輝く存在は水の中に消えた。俺はただ立ち尽くし、手の中の二つの卵を眺めていた。



「は--?」



 押し付けるだけ押し付けて去っていったぞあの人。

 なんだったんだ?今のは?



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