帰路

「ねえ、ヒロ君」

「ん?」


駅まで二人並んで歩いていると、ユナが声をかけてくる。


「すごく自然に手を繋いでくれるのね」

「ああ」

「しかも、恋人繋ぎだわ」

「えーと……、なんか不服そうだな。どうした?」


何故かはわからないが、少しムッとしている。怒ってるとか嫌がってるとかではないと思う。むしろ手を繋いでいること自体は嬉しそうだ。

うーん、わからん。長く付き合っていればこんな些細な変化の理由とかもわかるようになるのだろうか? 


「なんでもないわ」

「何考えてるかはわからんが、それが嘘ってことはわかる」

「……どうして?」

「ユナ、告白してから顔に出るようになってる」

「え? そう、なの?」


ユナは俺の言葉に驚きを隠せないようだ。

ぽかんと口を開けたまま俺の顔を見つめている。暗くて顔色まではよく見えないが、きっと赤くなっているのだろう。


「ああ。ころころ表情が変わるようになった。昨日までは表情の変化なんて滅多に無かったのに」

「本当、に? 私、そんなに……」

「可愛い顔がたくさん見れて嬉しいよ」

「ヒロ君がグイグイくるわ。悔しい……」

「えっと……?」


悔しい、とはどういうことだろう? さっきのムッとした顔と関係あるのだろうけど……


「今日は私から告白して、そのままどんどん攻めるつもりだったの。ヒロ君も初めのうちは驚いたり照れたりしていて、予定通りだったのよ。それなのに耳が弱点だって知られたあたりから、耳元で囁いたり、私のこと抱きしめたり、さっきも自然に手を繋いでくれて……」

「あー、つまり予想以上に俺が積極的だから負けたみたいで悔しい、と」

「そうよ。あなたはそんなに積極的ではないと思ってたのだけれど」


俺がヘタレってことだろうか?

失礼な。


「俺は自分の欲望に正直になっただけだ。すぐ顔に出るらしいからな。かっこつけるのは諦めたよ」

「そうね。私も正直に言うわ」

「うん」

「今日の告白、すごく緊張していたの」

「そうなのか。全然そうなふうには見えなかった」

「何度も頭の中でシュミレーションして、いつも通りの自分でって必死だったわ」

「そうか」

「だから、ちゃんと告白できて気が抜けたのだと思うわ。あと、あなたがとても嬉しそうにしていたから、ヒロ君も私のこと好きなんだなって思えて安心したの」

「そうか……」


俺、そんなわかりやすい顔してたのか?


「それで、緊張が解けて顔の筋肉が緩くなってしまったのかしらね」

「そりゃよかった」

「それでね、……あのっ、えっと、」


ユナは一瞬、迷ったように俯き言葉を続ける。


「今の私と普段の私、どっちが好き?」

「え?」


予想外の質問だった。


「もし、普段の物静かな私を好きになってくれたのなら、今の私はどうなのかなって、少しだけ不安で、その……」


まさか、ユナにこんな不安そうな顔をさせてしまうとは。

もしや今の俺では気持ちの伝え方が不十分なのだろうか? もっと遠慮なくいってもいいのか?


とりあえず、


「えいっ」


ユナにデコピンをしておこう。


「痛いわ」

「変なこと言うからだ」

「でも……」

「まだ言うなら次は頭突きする」

「ごめんなさい」


ユナの両肩を掴み頭を近づけると、流石に観念したのか頭を下げた。

俺はそのままゆっくりと頭を近づけ、コツンとユナのおでこに軽くぶつける。


「大丈夫、だから。今は、これで満足してくれ」

「……ありがとう」


ユナは嬉しそうに呟いた。

よかった。ちゃんと伝わったみたいだな。


「でも……足りないわっ!」

「なっ!?」


ユナの顔が近づいてきて、右の頬に柔らかな感触があった。


驚いて突っ立っている俺の手を引き、ユナは歩き出す。


「ほら、早く行きましょう? もうすぐ電車が来るわ」

「お、おいっ、ユナ、今のっ」

「いいから早く!」


俺の声には答えず、グイグイと手を引く。

きっとこれは照れ隠しだろうな。

俺は早歩きでユナの隣に並ぶ。そうして、また二人で並んで歩いて行く。


「明日、どこ行くか決めるか」

「ええ、そうね」

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図書委員ふたりの暇な放課後 雨利アマリ @amatoshi

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