第22話 天使の証明


「アワン!! 俺から離れるなよ!!」


「は、はいっ!!」


 この要塞そのものが揺らされたような鳴動に、俺は即座に飛び上がる。

 両の足で床を踏みしめ、両手を自由にする。何が来ても即座に対応できるように。

 屋内では能力を十全に発揮できないが、そんなことは関係ない。敵は戦闘準備が整うのを待ってはくれないし、こちらの有利なフィールドで戦わせてくれることなど、さらにないのだから。

 どこだろうと、相手が誰だろうと、ただアワンを守るのみ。


「<光よディアフォトス>!!」


 発光が周囲を照らしだす。

 アワンが急激な明るさの変化に目を細めたのが見えたが、俺の目は文字通り瞬く間に光に慣れた。

 瞼はかっぴらき、鋭い眼光が部屋内の全ての異変を見落とさないように動く。


 あの夜も、これくらいの時間だった。

 あの夜も、男と女の時間に無粋に上がり込んできた。

 あの夜も、突然だった。


 明らかな異常事態に、全力で戦闘態勢に移行する。

 脳は覚醒し、身体には活力がみなぎり、精神は程よく高ぶる。

 下は履いているが、上には何の衣服もまとっていない。しかし、関係なかった。

 呼吸を整え、血の流れは加速させ、精神を張り詰めさせる。

 絶対にアワンから目は離さない。俺は彼女を視界に入れながら、周囲の警戒を同時に進めた。


(位置を探るか……いや)


 <反教底位パルス>はまだ使わない。

 周囲の探知を行えば、少なからず集中力は散漫する。今はアワンの身の安全だけに全神経を注ぐ。それだけでいいはずだ。


「…………」


 張り詰めた精神の狭間では、時間は速く流れていくもの。

 もう数分は経っただろうか。何度か大地が揺れるような振動がしたが、この部屋内には異常はない。

 俺の人外の聴覚は、部屋外の確かな喧騒を拾いあげるが、いらぬ情報と処理する。

 俺はこの部屋の、アワンだけを見ていればよいと。

 しかし、俺の判断はとうとう物理的に阻害される。


「――オルキヌス殿! いらっしゃいますでしょうか!!」


(……この声)


 扉の外側、それもすぐ傍から、ノックと共に男の声が聞こえてくる。

 覚えている。ここに来た時、最初に声をかけてきた兵士の男。

 おそらくはアナークの側近の部下。この部屋に案内をしてくれたのも彼だ。

 俺の耳は人間の声くらいならこの距離でも正確に聞き分けられる。

 俺の聴覚は、間違いなくそれを本人だと認識していた。しかし――。


「オルキヌス殿! お返事を――!!」


(<反教底位パルス>)


 発生した超音波がぶつかり合い、部屋内を駆け抜ける。

 そのまま扉を突き抜け、室外へ。

 本来、天術だろうが魔術だろうが、他人に許可なく技術スキルを使うのはマナー違反だ。急に技術スキルを発動すれば、それは敵対行為と受け取られてもなんらおかしくはない。常識的にもかなり失礼な行為。


 だが非常時の上、敵が誰かも分からないようなこの状況。正当性はどちらにあるだろうか。

 まあ、俺は正義側に回れずとも構わず発動しただろうが。

 なぜなら俺の中では、アワンの身を守る事こそが正義。その正義を押し進める場合に限っては、原理原則、非礼無礼など眼中にない。


 不可視かつ不感知の音波は、外で声を上げる男を正確に捉える。

 男の全体像を、震える音が浮かび上がらせた。


(!)


 外見情報、本人。

 声紋、本人。

 呼吸、脈拍に異常なし。精神支配の兆候なし。

 まず間違いなく、ここに来て初めて出会った兵士の男。


「オルキヌス殿!! 入ってもよろしいでしょうか!?」


 計三度のノックと、三度の声掛け。

 おそらくは、そういう決まりなのだろう。

 ノックのパターンもコンコンと連打の後に、少し感覚を開けてまた連打の計4回。一般的な軍人の規則に則っている。怪しい点は特に見当たらない。

 ここまでくれば本当に踏み込んでこられる可能性もある。緊急時であるため文句は言えないが、俺はまだしも、アワンはまだ人目に出られるような恰好ではない。


「待て!! 我々は無事だ!! 準備をするのでそこで待て!!」


「――分かりました。お急ぎを!」


 兵士は遣いだろう。俺たちを呼んでいる人間にも察しはつく。

 同時に彼は俺たち二人の無事を確かめにきたものと考えられるため、本来であれば扉を開けて顔を見せるべきところだろう。しかし今はアワンから一歩も離れたくはない。この恰好のアワンを連れて行くわけにもいかない。ならばこれがベスト。

 俺はベッドの上で緊張に固まるアワンに、努めて優しく声をかける。


「ひとまず大丈夫だ。ゆっくりでいいから、準備を」


 指示を受け、即座に動き出すアワン。

 俺は緊張を解かずにその姿を見守った。




***




「総隊長! お連れしました!!」


「ご苦労様です」


 連れて行かれた場所は、城壁の、それも外壁の上。

 寒空の下、決して弱くはない風が吹きぬけているこの場所では、気を抜けば風に吹き飛ばされて落ちてしまいそうだ。

 アワンよりも外側――もしアワンが落ちそうになっても即座に庇える位置に立つと、星々が煌めく夜空など見向きもせず、俺は大地を見下ろした。


「…………なるほど」


 要塞の城門にひしめくのは、数えるのも億劫な数の魔獣たち。

 それも様々な種類の、大型の個体ばかり。何者かに使役されているか、操作されているか、はたまた誘導されているか。少なくとも自然的に発生したものではないことは確か。獣の唸り声や遠吠えを聴覚が捉えたが、やはりあれは聞き間違いではなかったようだ。


「何か、心当たりはありませんか?」


「……は?」


 エバの言葉に、真っ先に食いついたのはアワンだ。

 それは食いついたというよりも、反射的に漏れ出てしまったような声だった。


 まあ、気持ちは分かる。

 これでは、お前たちが原因ではないかと問い詰めているようにも聞こえる。お前たちが来たからこうなったとも。

 正直に言えば、今ある情報だけを並べて考えれば、俺にも全くの無関係とは思えなかった。何よりタイミングが良すぎる。


 俺はアワンを手で押さえながら、さりげなく周囲の人間を確認する。

 声が届く距離にいるのは、エバと、エバの娘アナーク、そしてエバの側近と思われる数人の兵士たち。ここで語るのはまずい。

 俺はひとまずお茶を濁すことにした。


「心当たりがあるんだろ? と言っているように聞こえますね。答えを一方的に決めつけてから特定の言葉を吐かせようとする行為を、質問とはいいませんよ。そしてその答えが全くの見当違いであれば、疑問ですらない。それはただの言いがかりです」


 俺の言葉に、兵士たちは強い反応を見せる。

 反射的に剣に手を掛けようとした者までいるくらいだ。踏み切らないのは、エバの指示がないからか。まあ、そちらに用はない。用があるのはただ一人。

 俺の些か刺激的な挑発にも、その女は変わらぬ微笑でこちらを見ていた。


「ですが事実、あなた方がここに来てから事は起きました。両者に何の因果関係もないと、あなたは証明できますか?」


 エバが会話に応じる姿勢――むしろ率先して踏み込んでくる様子を見せていることからも、即座の危険はない状況なのだろう。

 ここの防衛に関してはあちらの方が専門的な目を持っている。従っていいはず。最悪の場合ここグランド要塞自体を囮にして逃げる算段も立てていたが、この様子だと杞憂に終わってくれそうだ。

 思考の端でアワンの身の安全について検討しながら、同時に目の前の問題にも着手する。


 それにしても、いやらしい問いかけ方をする。

 目の前の自然現象、もしくは原因不明の突発的な事象に対し、自分が関係があるかないかなどの証明を、一体どうやれというのか。

 俺たちに全くの心当たりがなければ暴論。心当たりがあったとしても、実際全く関係が無ければ机上の空論。逆の立場ならお前できんのかと声を大にして言ってやりたい。

 事実その人間に関係があろうとなかろうと、あることの証明も、ないことの証明も普通は不可能なのだから。


 実際に俺の場合に当てはめて考えた時、俺は今回のこの現象に自分が全く関係がないとは思っていない。むしろ俺に関係している可能性は高いとさえ踏んでいるが、やはりその証明は不可能。

 俺が保有している全ての情報――具体的にはあの夜のアワンの件を今ここで明らかにしたとしても、到底因果関係の証明とはならない。誰もがそれを50%以上と納得しようが、それはあくまで可能性に過ぎないのだから。100%にしなければ、完全な証明とは言えない。

 比較的容易な関係性有りの証明でもその難易度なのだ。難易度が桁違いである関係性がないことの証明など、本来は絶対に不可能。しかも実際問題、関係がありそうだと当の俺が思ってしまっているのだから。

 だが――


「できますよ」


 俺はこともなげに言い切る。証明できると。

 特に胸を張ることもなく、特に瞳に力を宿すこともなく、変わらぬ態度でさも簡単なことだと口にする。

 何の決意も宿さない瞳を静かに向ければ、兵士たちはざわめき、エバの瞳は鋭く細められた。

 アナークは俺がこの場所に来てからずっと憮然とした態度をとっている。気にはなるが、この時点で俺のこの先の発言を予測して、というわけではないだろう。まあそれもすぐにわかることだが。


「聞かせてもらえますか?」


 当然、そうなる。

 そして俺はやればできる、なんて負け惜しみを残して煙に巻く男でもなければ、口だけの男でもない。アワンにこの場で、やればできる男の片鱗くらいは見せてやっても罰は当たらないだろう。


「構いませんよ。特にもったいぶることもない、取るに足らない話ですから……」


 俺はエバと壁の下が同時に見られる位置に移動しながら、語り始めた。


「――壁面の重要箇所を守っている金属は、ノーチスパージラン。パーラライトに次いで硬く高価な金属。昨日我々がここを訪れた時に確認しましたが、一部分が酸化、変色していました。高温かつ極めて局地的な圧力によってこの反応はしばしば起こります。それがあそこにいる<ドラゴン蟷螂マンティス>の鎌による攻撃です。周囲に確認できる壁面の傷跡から考えても、まず間違いないでしょう。他の魔獣ならもっと表面は粗くなるはず。変色からしておそらく数日前、この要塞は魔獣による攻撃を受けています」


 俺の考えは、今口にした通り。

 俺の予測では今回のような魔獣の大規模な襲撃が、ここ直近で数回は起きている。その事実をエバたちに認めさせることができれば、つい昨日ここへとやってきたばかりの俺たちと、今回の襲撃に因果関係がないことの証明ができる。


 俺はひとまずここで区切り、様子を見る。

 ここまでの説明にどういう反応をするのか、窺う。

 兵士たちは一斉に黙り込む。まるでその事実を隠せと命じられているかのように。もはや答えだが、そちらはどうでもいいと即座に視界から追い払う。

 やはり確認するのは、このエバ。果たして信頼を置いていいだけの能力はあるのか。今回の会話でその一端でも掴めればいいのだが。


「…………確かにあなたが言うことは正しいですが、それでは前回起こったものが今回のような大規模な襲撃とは証明できないのでは? それに、証拠の現物はほら、今消えてしまいましたよ。これでは今回つけられたものなのか、もっと前についていたものなのか、分からなくなりました」


(! ……なるほど)


 兵士たちの反応から、俺が今回だけではないと確信したことを見抜いたようだ。根本を誤魔化すのは流石に厳しいと譲歩してきた。


 エバの言い分はこうだ。

 一部、つまり魔獣の襲撃があったこと自体は認めるが、それは今回と同様の規模のものではなかったと。

 確かに数体が襲って来るなどの事例もここでは全く珍しいことではないだろう。むしろそちらの方が通常で、今回のようなケースこそが異常。発言におかしな点はない。

 そしてもし仮に俺の言う事が正しかったとしても、それも含めて証明しなければ意味がないということだ。魔獣の襲撃があったこと、そしてその襲撃が今回と同じような大規模なものであったことを、俺は誰にも分かるように納得させなければならない。


 エバが指した場所を眼で追う。

 そこには確かに、複数の<ドラゴン蟷螂マンティス>の姿。魔獣でひしめきあっていても、しっかりと確認できる。あれがここにいる限り、あの変色が今回起こったものなのか、それとも前からあったものなのかを証明することは難しい。

 供述証拠よりも物的証拠の方が重んじられるのは当然のことだが、それを除外して考えてもここでは人証の価値は低い。いやむしろ、俺の発言に証拠能力はないと早々に切り捨てた方が賢いか。


(…………)


 ひとまず、このくらいは反論できるようだ。

 俺が口にしたことを予め予想していたとは考えにくいので、瞬時に対応したということだろう。一部認めて問題を置き換える、もしくは問題を増やす論法も巧みだ。会話に慣れていることが伺える。

 俺はこれで関係がないことの証明と、魔獣の襲撃が直近で起こったことの証明、そしてその襲撃が今回のような大規模なものであったことの証明まで、同時に行わなくてはならなくなった。

 まあ、このくらいはできて貰わなければ困るが。


「私は今回と全く同じような魔獣による大規模な襲撃が、ここグランド要塞で直近に起こったと、確信しています」


「…………それは?」

 

「土です」


「…………」


 エバが黙り込む。

 そこで、これまで険しい顔で俺を睨むように見ていたアナークの気配が大きく揺れ動いた。まるで重大な何かに気が付いたかのように、サッと顔が蒼褪める。

 当然俺は気づいていないふりをして、黙って先を促すエバの望みに従った。


「我々がここに辿り着いた時、この周辺の大地は土が掘り起こされたようになっていました。その後に新しい土を埋めて蓋をしたようにも」


「…………」


「上手く隠蔽していたようですが、生憎私は土いじりには一家言ありまして。四足獣、大型の魔獣たちの行進によって掘り返されたんでしょうね。ほら、見て貰えれば分かります」


 俺は先ほどのエバの動きをなぞるように下を指さす。これは当てつけと挑発だ。どの程度感情を抑制できるのかも確認したかった。

 細かいことのようだが、怒りのコントロールというのは案外馬鹿にならない問題だ。これができる人間とできない人間とでは、大きな差があると俺自身は思っている。そしてそれは、こういった緊急時にこそ顕著だ。

 俺の行動に対し、特に感情の揺らぎを見せないエバ。若僧の遊びに付き合うほど暇ではないと言わんばかりに、華麗に無視される。

 少々野暮な探りだったかもしれない。俺がそう思ってしまうほどに、毅然とした態度だった。


 頭を切り替えて、自身が向けた指の先を見る。

 下では、城壁に体をぶつける魔獣の群れ。そしてその下の大地は、確かに掘り起こされている。埋めたばかりの新しい土だったためかまだ柔らかく、簡単に跡が出来上がっていた。


「……………………なるほど、確かに。ですが、先ほどの繰り返しがしたいのですか? 私は何度も同じことを口にするのは嫌いなのですが、分からないようなら仕方がありませんね。それを今回のものではないと――――」


「その前に、あのような大地の堀跡は、今回のように多くの魔獣たちの蠢動が無ければここでは起きないことですよね?」


 俺はエバが全てを言い切る前に言葉を差し込む。

 本来こういった、他人の言葉を遮ってまで自分の言葉を主張するようなやり方は俺の好みではないのだが――むしろ積極的に忌避する行為だが――今回ばかりは仕方がない。

 エバが俺の差し出口に対し、特に不快には思っていなさそうな事実が、少しだけ救いだった。


「ええ、そうですね。そういう場合でもなければ、ここグランド要塞ではまず起きないことでしょう。ですから聞いています。それを今回のものではないと、あなたはどうやって証明するのですか?」


 土が掘り返され、それが埋められていた。それをどうやって証明するというのか。それを昨日確認したのは俺だけ。確認したと今言っているのも俺だけ。ノーチスパージランの変化に関してもそうだ。

 例え事実であったとしても、物的証拠がない今のままでは妄想を語っているのと同じ。やはり供述証拠では証明には繋がらない。アワンの証言も、ここでは意味を成さないだろう。


 表面的には追い詰められながらも、俺は言質を取れたことに内心笑みを溢す。

 エバからすれば大した確認でもなかった。なぜなら彼女にとっての問題はすでに、今回か前回かの、現物での証明。彼女はそれが絶対に不可能だと確信しているからこその発言。

 そして現在壁門前の大地は、魔獣たちによって蹂躙されている。土足で踏み荒らされている。ノーチスパージランについても、土についても、物的証明は不可能。だからこその即座の同意だったのだろうが、俺にとっては極めて重要な同意だった。


 彼女は認めてしまった。土の掘り返しは、多数の魔獣による襲撃でしかここでは起こらないと。

 これで俺は、たった一つの事実だけを証明して見せれば済む。


「それを証明するのは、私ではありません」


「……え?」


 呆けたように、俺の視線を追うエバ。

 そこにいたのは、蒼褪めて俯くアナークだった。


「私は昨日あなたと会う直前、そう……ちょうどあなたの部屋へと案内されている途中に、そこにいる隊長殿にこう問いかけました。『要塞前方の大地の盛り上がりが不自然だが、何かあったのか』と」


「…………」


「隊長殿はこともなげにこう言いましたよ。『地中に罠を仕掛けていたが、外交使節団の来訪にあたり撤去した』とね」


「っ!!」


 エバの強い視線が、娘に突き刺さる。

 あの時、アナークは巧く誤魔化した。14歳という若さを思えば、あの場では出来過ぎなくらいだ。しかし、俺の狙いは質問そのもの。アナークがその場を、土が掘り起こされていたという現場を確認したという言質さえ取れればよかった。


「私も、何度も同じことを繰り返すのは嫌いなので一度で答えて頂きたいのですが…………隊長殿」


 唇を噛み締める少女を見つめる。

 本当に、慙愧に堪えないといった様子だった。


「あなたはそんなことは口にしていないと、この場で証明できますか?」


「…………」


 可能か不可能かで言えば、可能だ。なぜなら、一言嘘をつくだけでいい。

 ここではただの旅の男の戯言よりも、隊長であるこの女の言の方が遥かに重いだろう。少なくとも、俺に供述証拠の余地を与えない程には、この場での言葉の重みは違う。

 しかし、俺がアナークにこの質問をした時、そばにはアナークの側近と思われる二人の兵士がいた。彼らにも当然、その時の俺たちの会話は聞こえており、この顔色を見れば二人はしっかりと覚えているのだろう。


 さて、部下の前でかのエバ・アリエスの娘が、嘘を言えるのか否か。見ものだ。

 もしここで嘘を言われても俺は構わない。その時はまた別の手がある。子供の発言一つに左右されるような、ずさんな策は練っていない。

 目的は徹頭徹尾、この親子を信頼していいかどうか測る事にある。

 アワンを信頼するからこそ、余計に確かめられずにはいられなかった。

 これは言わば、心構えや気構えの類だ。


 長いようで短いような時間は、やがて終わりを告げる。

 アナークの、絞り出すような声で。


「…………できません」

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