第29話 奇襲
冷凍庫内。
ランタンの火はこの低温でも消えず、赤く燃えている。青顎は燃料として創造されたと言わんばかりだ。
青顎、銀目玉と来て糞ゴリラはあまりにもレベル差がありすぎるが、これがリアリティショーなら糞ゴリラの撃破方法は必ず用意されているはずではある。
冷凍庫は琥珀風の壁ではなく翡翠風なので、この施設の壁のテーマは宝石か何からしい。
それ以外はだいたいがコンクリート施設と共通している。1階に落ちている物の内容も微妙に違うくらいなので、奴がこの階層にいるのは確実だ。
もしも糞ゴリラが前回と同じ個体だった場合、私の前回の挙動を学習して行動を変えてくるだろうか?
どちらにしろ、今は奴の警戒心が強いことを前提の作戦しか立てられない。
耳をすまし、薄明かりの向こうを探る。
階段から左手3部屋目。この右手の通路に奴がいた。3部屋目の入り口から右手出入口を遠巻きに眺める。
モッモッ
やばい。奴の鳴き声が近づいてきてる。
問題は前回奴がいた通路ではなく背後からだ。
倉庫に入り通路右手にカゴと土嚢袋を置き、自分はランタンとジップロックだけ持って左手の壁に隠れる。
息を大きく吸って止める。
冷凍庫の天井に身体が貼り付いた時、糞ゴリラが部屋に入ってきた。
モッモッ
キョロキョロと私を探しているが、上を見る気配はない。
カゴと土嚢袋に気付き、糞を掴むあの手でベタベタ触ってやがる。
壁を這って糞ゴリラの真上へと移動していく。
息を止めてるのに鼻の奥まで糞臭が漂ってきて最悪だ。
ジップロックを開けて、半分凍り出してる青顎の血と肉を糞ゴリラに向けて落とす。
ベシャッベチャ
モッ
ランタンを投下した瞬間、糞ゴリラと目があった。
糞ゴリラがケツを手に回すのと同時に壁を蹴って息を吐き、自分を投げ落とすように、地面に急降下した。糞の砲弾が脇腹をかすった。奴にとっても浮遊してる物が突然落ちるような挙動は予想外だったらしい。
しかし、糞ゴリラが燃え上がる雰囲気はない。作戦失敗だ。もう手持ちはレシートしかない。次の倉庫に走り出す。
モッモッモッモッ
もうこのまま全力疾走でこの冷凍庫の出口を探すしかないが、背後のギャロップは確実に近づいてくる。奴には一定の距離を保つ気はなくなり、距離をどんどん詰めてくる。攻撃されたことに怒って今度は直々に殴り殺す気だ。
ぎゃああああああああああ
モッモッモッモッモッ
恐怖のあまり絶叫し、他に手を思い付かないので意表をつく気で転身し糞ゴリラの脇へ跳んだ。糞ゴリラの動体視力が十分あれば全く無意味なのでほとんど祈るような心持ちだった。
モッモッモッモッ
ボボボボボボ
糞ゴリラは跳び退いた私には反応しなかった。
私よりも自分の背中の業火から逃げる方が忙しいようだ。
煙を撒き散らしながら倉庫の出口へ消えた。
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