第24話 風船
最初から右手の法則で行くと、やはりいきなり袋小路で、液体の入った500mlのペットボトルが換気扇の前に置いてあった。
中身は無色透明。ネジキャップなので繰り返し使える。蓋を開けると、ご丁寧なことに封入窒素の抜ける音がする。
1滴指につけて嗅いで見るが無臭。舌先に乗せても特に刺激はない。完全に水らしい。
こんな始めから飲み水があればあんなに苦労することもなかったろうが、これから10km歩いて水が無い可能性は普通にあるので温存は必至だ。
法則性がわかれば自信が湧いて、気力も維持できる。
左に行って、右に。
さあなんでも来いと袋小路を覗こうとした瞬間、ジョキリと刃が鼻先をかすめた。
青顎の奇襲だった。右の安全靴を脱いで殴りつけてやろうと深く息を吸った時だった。
身体が腹を上にして浮き出す。
「なになになに」
驚き息を吐くと尻餅をついたので、青顎が頭に飛びかかってきた。
ケツを掴めば防刃繊維のツナギに阻まれこいつは何もできなくなる。そのまま電気柵に投げつけて始末した。
今のは一体なんだったのか。深く息を吸って止めて見る。
腹を上にして身体が浮き出す。その様は、はたから見ると風船のようかもしれないが、自分の感覚では水に浮かんでいるようだった。
息を吐くにしたがい「浮力」がなくなって、吐き切ると何事もなかったように地面の上に立つ。
突然地味な超能力に目覚めたのか?
心当たりはある。ポケットのレシートを風に飛ばないよう瓶を重し地面に置く。深呼吸してみるが何も起きない。レシートをポケットに戻して息を吸って「止める」と浮力が発生した。
間違いない。
「監視者」はチュートリアルやマニュアルを全く用意しないが、答えはそこかしこにあるということだ。
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