第22話 糞ゴリラ

ゴリラは人間よりはるかに筋力があるが、ほぼ完全な草食で大人しいと言われる。


だが、糞ゴリラは恐らくゴリラを模造した人造生物だ。ゴリラのような筋力をもって、草食とは思えない獣臭と腐った油臭のするとんでもなく臭くて硬い糞を、人の骨を砕く速度で投げてくる。


糞つぶてを頭か胸にくらえば即死だ。


一瞬で腕を折られ、完全に力負けしてるのを察し、戦意喪失したままに左手の通路に向かって走り出す。


折れた左腕が、私を固定しないと大変なことになるぞと痛みを脳に送ってくるが、構ってられない。


モッ モッ モッ


ゴリラらしくない鳴き声と、ギャロップの如く飛び跳ねる音が背後から迫る。


左!左!左!左!


頭でマッピングする暇もなく左手を選んで走り続ける。


その倉庫は霜が異様に少なくちょっと温かい。出入口の一つに見慣れた換気扇。

換気扇の奥には下階に通じる階段も見える。

クソッタレ。

一周してきたのだ。


バギャッ


同じところを周ったことに慌てて、後ろを振り返った瞬間、腹に鈍痛を喰らった。


糞つぶての衝撃が、腹腔だか内臓だかに破裂をもたらしたらしく、血とグミと消化液を上と下から噴き出す。腹の激痛とともに頭から血の気が引いて倒れ込んだ。


血の気が引くだけではなく横隔膜も連続しゃっくりのような痙攣を起こした具合で呼吸が上手くできない。


臭くて冷たい空気をいくら吸おうとしても臭くて冷たいばかりで息が吸えず、ただでさえ暗い倉庫はどんどん暗くなる。


腕も腹も人生で味わったことのない痛みを発し、尻からは何らかの粘液や固形物がとめどなく漏れている感触がじわじわと伝わる。


音も光も遠ざかり、糞ゴリラへの怒りも死への恐怖も苦痛もどんどん意味がわからなくなっていき、意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る