第19話 焚き火

今までの一方通行原則から、この階段を登るとこの先、冷蔵庫か、下手をすると冷凍庫のようなフロアに出て戻れなくなるという推測が立つ。


今までの通路を1階として、10kmか20kmか、恐らく1泊2日ぐらいの時間で歩いてきた。同じ距離をこの低温で移動したら通り抜けきる前に低体温症か、酷い飢えを引き起こして死にそうだ。そうでなくとも既に飢えて渇いている。万全の状態とは言い難い。


だが、1階に留まることはもうできない。突き当たりから後ろへ下がってみると、そこには既に換気扇と電気柵が生えている。


3階が暖かいことを祈って速攻で通り抜けるか?しかし、そのことを見越して2階には何かしらの便利な道具や食糧が保管してあるかもしれない。探索しないわけにはいかない。


階段から見える灯りは、今までのガストーチではなく電灯と思われる熱のない照明だ。


土嚢袋から暖をとるのに使えそうなものは無いかと探したが、ガストーチの火を移して燃やしたとしてもすぐ燃え尽きるようなものばかり。感熱紙のロールを全身に巻き付ければ多少は暖かいか。


心を馳せすぎた。階段まで進む前に、比較的暖かいグミの部屋で休むべきだった。だが、先に進むよりはマシなので、階段を肘置きにして休むことにした。


土嚢袋からキューピー人形や洗剤スプーン、造花のカーネーションなど、この状況では用途の乏しい(というか思いつかない)プラスチック製品を取り出して、階段前最後のガストーチにかざして火をつける。


2階で燃やせないなら、今燃やして少しでも暖をとっておこう。


プラスチックは真っ黒な煤を撒き散らし、ドロドロパチパチと溶けながら燃えていく。汚くて臭い焚き火にあたりながらグミを噛み、眠った。

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