第18話 冷気

袋小路が100m間隔であって、20部屋くらいを覗き込んだのであるから、2km歩いたのだろうか。分岐の往復を含めると4kmか。


欲しくもない微妙な物品を土嚢袋がパンパンになるまで詰めて何kmも歩くのは、「歩くゴミ屋敷」といった心持ちだった。


巨大グミはそうそう落ちてるものではなく、水はこの迷宮に放り込まれてから一度も見ていない。


喉は粘膜が張り付き苦痛だったが、かといって青顎の死体から体液はすする気になれない。獣臭と金属臭がする上に、触れたところが痒くなるあたり恐らく飲むと何かしらの害があるだろう。


絶え間なく吹き付ける風が汗をどんどん乾燥させるので、身体中で塩粒が擦りあい、肌が軋む。


休めば状況が良くなるわけではないので歩ける限り歩き続けるしかなく、渇きの苦痛に死の恐怖が混じり始めていた時だった。


丁字路に差し掛かり、ルーチン通り右手に向かおうとした時、左から初めて風が吹いてきた。その風は鳥肌が立つほどひんやりとしていた。


明らかに今までと違う傾向だ。先に左を確認したい衝動に駆られるが、室温も風向きも違うということは左に進めば違う施設に通されるはずだ。そして、背後の換気扇は、最初からそうであったように前進し、私が適温の廊下に引き下がることを阻むだろう。


頭皮に汗が噴き出す不快感を抑え右手に進むと白色の頭ほどあるグミが転がっていた。やはり先に右手を見て良かった。マスカット風味の巨大グミを少しちぎって食べ、脇に抱えて冷たい廊下に向かう。


丁字路の左手を進むと、風はどんどん冷たくなり、コンクリートは結露で湿っていく。


回収した瓶を冷やせば結露水が集められるかもしれない。


突き当たりの角を曲がった時、上りの階段が現れた。


吹き付ける風は、さらに冷たく、痛いほどになっていた。

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