第16話 一方通行

眠ったらまた別のところに移されてるかもという懸念はあったが杞憂だった。

死ぬような目に遭わなければ意識を失っただけでは移動されないようだ。


根本的な解決から遠いが、喉が渇くので残りのグミも食べてしまう。代わりのように、青白いキューピーの胴を握りしめ、「右手の法則」に従いながら来た道を戻る。


シャツの切れ端を置いた丁字路に戻るはずだ。

寝てる間に通行したものによって切れ端が丁字路から無くなってる、ぐらいのことは想像した。


切れ端は確かにあった。


丁字路の右手から戻ってきたので、その通路は直角の分岐路に見えた。左手には換気扇と電気柵が、風化しかけたコンクリートに埋まるように生えていた。


まるで施設の建設当初から誰も手入れしてないかのように、埃を固く巻き込んだ姿で設えられている。換気扇の奥には見覚えのある黒い布切れが無造作に転がり、換気扇の作る負圧にわずかにはためいていた。


分岐を選び直すことは許すが、後戻りは許さないというルールらしい。


常に背中から風が送られてきたのは「外」が背後にあるということではなく、換気扇の方が移動していたのだ。あの一基でこんな数kmも風を送り続ける謎は解けたが、これだけの工事を音もなく数時間、もしくは一瞬でやってのける神業と、一基の換気扇を延々と移設し続ける非効率さの齟齬が、不気味で恐ろしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る