第15話 袋小路

青顎と違って銀目玉には粘液がなく触りたくない不快さはなかったので、残骸から道具になりそうな物を探した。


金属容器は裂けているしブロックは粉々なのでガラス片のうち大きな物にシャツの切れ端を巻きつけてナイフにした。成分だけでいえば黒曜石のナイフと同じだ。


キューピーは巨大グミと一緒に持ち歩くのは厳しいが、頭だけ外して身体は捨て、シャツの切れ端を中に移してからポケットにねじ込んだ。何かの容器になりそうだ。


換気扇の羽を透かして見る向こう側は同じような通路だ。風を吹き込む以上、その通路を行けば外にでられるはずだ。怨めしく電気柵を睨むが、鉄格子はただ天井のガストーチの光を鈍く反射するばかりでそこに表情も意識もない。


怪物に襲われたばかりだから次の怪物がここに現れる可能性は当面は低い。そして忌々しい換気扇と電気柵は数kmぶりの擬似的な袋小路を提供してくれる。休んでる時に監視しないといけないのは来た道だけになる。壁に背をもたれて座りこんだ。


グミを見つけたところで休むのをやめた挙句、敵に呪いをかけられ、仕返しに粉砕するなど過重労働だ。疲れ果てた。


グミをちぎっては咀嚼する。喉が渇くが、グミが浸透圧で引き出した口腔の水分を以て、水分補給ができたような錯覚で気を紛らわす。


空気は3分、水は3日、食事は3ヶ月だったか?「監視者」がいてそいつは私を死なせる気がないのは電気柵と青顎の件でわかってるから、脱水症状が出て死にかけたタイミングで水を寄越すかもしれない。だが、それまで苦しめられるのが腹立たしい。


だいたい何をやらせたくてこんなことを?リアリティショーか?どこかで闇金持ちの娯楽として配信されてるのか?


しかし、仮に闇金持ちの娯楽だったとしても、そいつはただの闇金持ちじゃない。


銀目玉の存在が、「監視者」には人の精神をハッキングする能力があることを示している。それは、私が21世紀初頭の科学知識と社会状況を知っていながら、自分の個人情報は名前以外一切思い出せないという状況証拠もある。


そういう、超常的な能力を使って、私の視界を覗き込むか何かで楽しむか、なんらかの実験を行っているに相違ない。


とても太刀打ちできないので、裏をかこうなどと考えるのはやめよう。一休みしたら今度は「右手の法則」でいこう。


グミを半分ほどちぎり食べたあたりで座ったまままどろみに落ちた。

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