第13話 Lv2
青顎よりはるかに小さい、体長20cmもないようなキューピー人形だった。
造形自体は、新生児の短い髪の毛を模した尖った頭に、3頭身の身体、頭に対してやや大きな目という至って普通のキューピーだが、肌の色は赤みが全くなく青と白のモノクロで表現されていた。赤みがないと身体全体が目玉のように見えてきて、虚空を見つめる笑顔と共に、身体全体を使ってずっとこっちを凝視しているように感じられる。
バラせば何かの道具になるかもしれないが、気持ち悪いし罠の可能性があるので近寄るのをやめておこう。
もとの丁字路に向けて振り返ったはずだった。
視界の真ん中に相変わらずキューピー人形は居座ってこっちを凝視している。確かに身体は振り向いたし、触感では確実に風は背中から当たっている。
なのに、換気扇は前にあり、換気扇の前に置かれたキューピー人形に私は凝視されている。
頭を振って、目を閉じても視界からキューピーが消えない。理屈の全くわからない超常的攻撃だ。
そして徐々にだが、視覚だけではなく嗅覚や触覚にも影響があり、それまで乾燥しててほぼ無臭だった空気に、梅雨の最中のような肌に張り付く湿り気と、カビが生えて腐りかけた木材の臭い、そして絵の具めいたフェノール臭が漂う。
身体を恐らく人形の側に向けたはずだが、視界が変わらないので自分がどういう状態になってるのかがわからない。風は身体を動かした向きに応じて当たり方が変わるので、触覚は奪われきっていない。
恐る恐る人形があるはずの方向へ足を進めると不意に視界に髪の毛が表れた。自分の頭だ。ゲームで3人称視点で自分の操作するキャラクターのようだ。激しい違和感と嫌悪感が生じる。
不愉快さを押し殺してなんとかキューピー人形を掴む。このキューピーを見てから異常が起きたのだから、当然このキューピーが原因だ、破壊すれば止むはずだ。そこで、立ち止まった。
一体、今の自分の視界は誰の視点なのか。
自分の身体を今一度振り向かせると、キューピー人形を握りしめたまま、自分の視界に向けてにじり寄る。鏡の自分に向かって殴りつけるような心地で、キューピー人形を自分の視界に向け大きく振り下ろした。
ボグッ
鈍い感触とともに、視界から換気扇も自分も消えて、丁字路に向かって何かが転がっていく光景になった。
後に銀目玉と名付けた怪物との初接触だった。
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