第12話 右手

頭ほどあるグミを小脇に抱えてさらに1km、左へ左へと歩き続けたが、何にも遭遇せず同じ通路が延々と続く。建物の構造としてこれはどういうことだろうか?この巨大な建築のどこを私は左へ歩き続けているのか?左へ歩き続けることは正解なのか?左手の法則とはどういう用途だった?


迷路の中で、右手にしろ左手にしろ、片方だけを常に壁に触るようにして進めば、出入り口に出るか、同じところに戻ってくる、そういう法則だ。法則だったか?


後方に換気扇があるであろう、あの「最初の場所」から私は5km?6km?左に進み続けたのだから、この通路が輪になっているならいずれ電気柵に遮られた換気扇が目の前に現れるということだ。


体感だから不正確とはいえ、6kmも来たのか?なのに風の強さが変わらない?私は曲がらなかった右手の通路に換気扇があるのか?だが、どの丁字路を曲がる時も、風は常に後方から来ていた。右手から風が吹き込んだ記憶はない。


直径6m程度の換気扇で6km先にも風を送り続けようとすると、換気扇の間近にいたら人間など吹き飛ばされる勢いではないか?


これは、右手に換気扇があるのを私が見逃したと考える方が妥当だ。


そして、左手の通路には常に風が送り込まれているということは、この通路は巨大建築の換気ダクトで、ダクトから吸排気する側が右、空気しか通らない側が左なのではないか?


そうだとすると、私は偶然にも外から遠い側を選んでしまったことになる。


元の場所に戻ったことがわかるよう、目印に黒シャツの切れ端を、明らかに人の手が加わった証拠として正方形になるよう折りたたんでから床に置いた。


仮説の検証に、初めて私は丁字路を右へ曲がった。


突き当たりに差し掛かると後方よりも強い風が前方から吹いてくる。


もしかしたら「電気柵と換気扇」かもしれないが、それでも何もないよりずっと良い。

果てがあることを実感したい。


風に臭いもないから「敵」の可能性もない。あわよくば「外」が見れればここから出る見通しが立つかも。


突き当たりを過ぎると、換気扇が表れた。

そして換気扇の前にはあの電気柵と、柵にもたれかかるようにキューピー人形が置かれていた。

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