第10話 後始末
切り刻まれた黒シャツはもう着れないが簡易の包帯になるので使える大きさの切れ端をポケットにねじ込む。
青顎の体液がそこらじゅうにこびりついて臭いし、肌で飛沫の散ったところは拭ってもかゆい。
水がない。今は手を洗いたいが、そもそもこのまま飲み水すら確保できないと脱水で動けなくなる。水場を探さなくては。
青顎は一体何の動物なんだろう。
去り際、確認したくなったので死体を足で転がしてみる。目らしい目はない人の生首状の身体に、例の汚い青い毛が生えている。短い手足に移植された痕跡はなく、可哀想な動物に改造手術を施したようなものではないらしい。
「遊星からの物体X」?「遊星より物体X」?
とにかく映画に出てきた歩く生首に似ている。肝心の「首」はないから正確には頭部と呼んだ方がいいだろう。
安全靴で殴り続けたので、前足の刃はひしゃげ、亀裂が走っている。金属の手足が生えている動物なのだ。改造された痕跡がないから、そもそも生まれた時から人工物らしい。
人工的に生物を作り出すというSFのような技術を使ってでき上がったのがこんな醜い生首で、高い技術と低い倫理、そしてデザインセンスの欠如というチグハグな製作者に嫌悪を覚える。
もげた後足の付け根から内臓が飛び出し、体液は死体から漏れ出し既にコンクリートに吸われていた。こうなっては仮に死ぬほど喉が渇いてても啜ることは不可能だ。
青顎との初めての死闘はただ私の命が拾われただけで、情報以外は何も得なかった。
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