第9話 死闘
緑青廊下の「敵」と同じものなら、こいつの刃は、皮膚と真皮、筋肉を一瞬で切り開き頚動脈まで届く鋭さがある。
向こうが反応する前に殺らなくては。
布フレイルを振り上げようとするが、それより早く青顎は刃をこちらに向けて飛びつこうと跳躍してきた。
突進を防ごうと布フレイルを自分の顔前に引き下げると、青顎は布フレイルの巻きつく右手に飛びついた。
ジャキリと黒Tシャツが切断され安全靴がこぼれ落ち、もはやフレイルのていを成していない。
仕留め損なったことに気づいた青顎は私の右手から私の顔へ刃を伸ばす。咄嗟に私も左手の安全靴で跳ね除ける。合皮が切れ鉄板が露出したが、鉄板には傷がない。
鉄板なら殺れる。
右腕に青顎の後足がしがみついてくるまま、右手で青顎を掴み返し壁に押さえつける。
何をする気かわかったのか青顎は右腕に刃を振り下ろし続けるが、シャツと違ってツナギは切断できない。ガラス片も掴めるアラミドかケブラーを使ってるらしい。なんでこんな上等なツナギを着てるのか。
安全靴をコテのようにはめて、爪先で青顎を殴りつける。刃が私の顔に届いたら負けだし、青顎が私の手自体は防刃ではないことに気づいても負けだ。出鱈目に動かされる刃を安全靴で受けてから爪先で殴りつける。殴りつけるごとに刃の勢いは弱まり、生臭い赤黒い粘液が撒き散らされる。
爪先で毛を叩き分けて現れた青顎の口に安全靴を押し込む。人の頭ぐらいしかない動物に身体の半分はある安全靴を無理矢理飲ませる。
内部にあるそれなりに繊細なのであろう構造が砕け、裂け、潰れる感触がある。断末魔とばかりに、青顎の後ろ足が私の右腕を掴む力は強まるばかりだが、こっちも右腕の刺し傷程度で音をあげている場合ではない。
右腕の痛みも、首を切られた恐怖も、こんなわけのわからない所に押し込められた理不尽も、何もかもが憎いままに青顎を両手で壁に叩きつける。何かが潰れる感触とともに刃の動きは止まったが、青顎の後足はまだ右腕に食い込んだままだ。死後硬直だろう。そのしつこさに怒りがますます燃え上がり、青顎の身体が破裂して後足の根本が砕けて飛び散るまで床や壁に何度も叩きつけた。
今、あの時の私が目の前にいたら「もったいない」とアドバイスするが、状況を飲み込めてないのだから避けられなかったとは思う。
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