第5話侵入者(1)
「まじでこんな洞窟が出来てるなんてな」
三人の武装した男女がとある洞窟の中に入る。
一人が松明を灯して中を覗くとじめじめとした洞窟が奥までと続いている。
「そうね、でも出来たばかりの洞窟ってダンジョンの可能性もあるでしょ?もしかしたらお宝が眠ってるかもよ!」
「だな!」
うきうきで洞窟の中に入っていく彼らは人間の間で冒険者という職業に就く者たちだ。
冒険者は基本的には冒険者ギルドという仲介場を通して様々な依頼を受け未踏の地の探索や魔物を倒して出た素材を売るなど、冒険をして金を稼ぐ職業だ。
そんな彼ら、冒険者パーティー風浪の牙がこの洞窟に来た理由は冒険者ギルドから依頼されたクエストの帰り道にとある洞窟を見つけたためだ。
「初めはこんな所、来るつもりなんてなかったんだがレーナが寄り道したいって言ってくれて助かったぜ。もしここが本当に未踏ダンジョンなら調査だけでもいつもの十倍以上は稼げるからな!」
未踏ダンジョンはまだ誰も立ち入ったことのないダンジョンのことを指す。ダンジョンとは自然に生まれるもので中には魔物と人類では再現できないような貴重なお宝が眠っている。そんな場所を探索するのもまた冒険者の仕事である。
また未踏ダンジョンは冒険者の中での憧れの場所であり、生まれたばかりのため危険は付き物だがその分多くの報酬が手に入る。
その日暮らしな冒険者にとっては一攫千金を狙える未踏ダンジョンは宝の山とも言える場所だ。
「そうね、ベックはもっと私に感謝するべきよ!」
「へいへい、さすがうちの姫様は冴えてるな、よっ!世界一~」
「えへへ~」
「はあ~うちの姫様ちょろすぎじゃないですか?」
「アル何か言った?」
「いえ、何でも……」
アルと呼ばれた男が口を押えて目を泳がせている。
そんな姿を見てベックと呼ばれた大男が大笑いするとそれに釣られて二人もプッと吹き出し笑みをこぼす。
「よし、緊張は解けたな。突入するぞ!」
「ええ!」
「了解!」
笑い合っていた二人の表情もまた死地に向かう戦士の顔へと変わっている。
これが風浪の牙のルーティン、戦いになる前に緊張をほぐすため全員でひとしきり笑い合う、そうすることで肩の力が抜け本来の力が発揮しやすくなる。
「じゃあ自分が先行しますね。何かあれば知らせます」
「おう、アル、任せた」
「うっす」
風浪の牙のパーティー構成はいたってシンプルだ。
松明を持ち先頭を張りいろいろな形でサポートに入りやすいように位置取りしているのが職業シーフのアルと呼ばれたフードを被った男、その後ろにいつ戦闘になってもいいように大剣、大盾を構えた全身フルプレートの大男、職業戦士のこのパーティーのリーダー、ベックと呼ばれた男が追従し、最後に大きな帽子を被った職業魔法使いのレーナと呼ばれた彼女が後衛で支える形となる。
すぐに気持ちを切り替えられるのは彼らが長年冒険者として活動してきたためだ。
この風浪の牙のパーティーを結成して五年にもなり、冒険者ギルドには各ランクシステムがあるのだが、ついこの間には上から三番目のランク、Bランクにまで上り詰め中堅冒険者だ。
「じめじめしてて気持ち悪いわね」
「だな」
辺りを見渡しても代り映えのない風景が続く。
慎重に進んでいると先頭を歩くアルが立ち止まって振り返る。
「お二方、今のところ魔物の気配を感じ取れないのでちょっと先行してきてもいいですかね?」
「ん~私はいいと思うな。ここまで一本道だったしただの洞窟の可能性もあるわけだからアルに確認してもらってただの洞窟だとわかれば早く帰れるよね。もし最悪魔物がいてもアルだけなら身軽だしすぐに逃げて来れるでしょ?」
「お前が楽したいだけじゃないのか?」
「えへへ、バレた?」
舌をちょろっと出して笑うレーナ。それを見てベックがため息をこぼす。
「はあ~いやまあそうだな。アル行けるか?」
「了解っす。ちょっと行ってくるんでしばらくここで待っていてください。スキル、暗視、疾走」
アルは自分が持つ松明をベックに渡すとスキルを発動する。
暗視は暗い場所でも昼間のように見えるようにするスキルで疾走は自身の移動速度を上げるスキルだ。
そうしてアルは目にも止まらぬ速さで洞窟の奥へと突き進んでいった。
「ねえベック、ここってダンジョンだと思う?」
「ん~いや、もしここがダンジョンならここまで魔物がいないのもおかしいだろ?多分天然にできた洞窟だと思うぞ。今にアルが向こうから帰ってくるんじゃないか?」
「そうよね~」
そうして二人はしばらくアルのことを待っていると洞窟の奥からアルの悲鳴が聞こえてきた。
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