第2話ゴブリン異世界に立つ(2)

「…………――――て…………――きて…………――」


 誰かに呼ばれているような気がするが瞼が重くて起きられない。


 別に眠い訳ではないがもう少しこの暗闇に身を委ねていたい。


 声を無視して眠ることに集中しようとしたが声の主はそれを許してはくれなかった。


「起きてくださいと言っているでしょ―――!!!!」

「―――ッ!?」


 鼓膜を突き破る勢いの大声に慌てて目を開けて体を起こす。


「へ?」


 目を開けて驚く。


 自分は確か部屋にいたはず、なのに今いる場所はほんのり明るいジメジメした洞窟のような場所にいるからだ。


「どう、なって………」

「はあ~やっと目を覚ましてくれましたか。てっきり転送失敗しちゃったのかと思いましたよ」

「え?」


 声のする方に目をやると光の球体のようなものがふわふわと浮いており多分ほんのり明るいのはこの球体のせいなのだろう。


「なんじゃこりゃ……てかここどこだ?」


 しゃべる光源?のおかげで辺りが見えやすくなったので今いる場所の情報くらいは把握できた。


 どうも洞窟であることは間違いないらしくかつここは洞窟の一番奥らしい。


「いろいろと突然のことで混乱されているとは思いますがまずは私の自己紹介からさせてください。私は女神、いえ元というべきですか名をフレイヤ=フェール=ラルシスといいます。あなたとあちらの世界でメッセージのやり取りをしてこちらの世界へとあなたを連れてきたのも私です。目黒めぐろ直人なおと様」


 言って光源はペコリとお辞儀のようなものをした。


「待て待て待て、意味が分からん。つまりこんな場所に連れてきたのはあんただっていうのか!?それなら今すぐ戻してくれ!俺にはやらなきゃならんことが山ほどあるんだ!」

「ごめんなさい、それはできません」

「な、どういう!?」

「ここは直人様、あなた様がいた世界とは別の世界、今風に言うなら異世界だからです」

「なぁ!?」


 確かに喋る光源なんて異世界ぽくはあるがそれでも何かのセットである可能性だって…!


「そんなに見渡してもカメラなどはどこにもありませんよ」

「―――っ!!何の目的があって俺を誘拐したんだ!?」 

「確かに誘拐といえば誘拐なのかもですが―――もしかして私が送らせていただいたメッセージを最後までお読みにならなかったのですか?」

「メッセージ?」


 メッセージといえば記憶に新しいのでいえば頭痛が激しいときに見たあのメールのことか?そういえば質問事項の最後の方に何か書いていたような気がするがあの時は頭痛でそれどころではなかったので覚えていない。


「はあ~いえ、私にも落ち度はあります。直人様の警戒心の高さを計算に入れていなかったのですから。では改めてお話ししますね」


 そうして女神を名乗る光源はザックリとだが説明を始めた。


「この世界、ラルシスというのですが元々は私が作った世界なんです」


 自分の名前かよ…


「あっ!今世界の名前自分の名かよって思ったでしょ!仕方ないじゃないですか、私名づけって苦手なんですよ…」

「さいですか」


 言ってもいないのに勝手に言い訳をする女神。


 それにしても顔に出ていたか?


「オホンッ、え~話を戻しますね。でここは私が作った世界なんですけど直人様の作ったゲームをやっていたらいつの間にか他の神に乗っ取られてしまったらしく……」

「はああっ!?」


 今日一の大声が出たかもしれない。


 なんか情報量が多すぎて頭が痛くなってきた……。


 ゲームしてたら自分の世界が乗っ取られたとかあほらしすぎるだろ……。この女神は馬鹿なのか?


「自覚はありますけど私、そこまで馬鹿じゃないですよ!!」

「……!!」


 声に出していないはずなのにこちらの思ったことを言い当てられた。


 困惑していると向こうの方から答えを教えてくれた。


「そんなに驚くことですか?あなた様とメッセージのやり取りをしていた時も同じようなことをしたじゃないですか」

「同じようなこと……?」

「頭の中を覗いているんですよ」


 ならこちらの心の声はこの光源に筒抜けだ、ということか。


「そういうことです。あと光源呼ばわりはやめてください!レイシスとお呼びください、親しい間柄の方からはそう呼ばれていますので」

「そう、よろしくレイシス。ただあまり頭の中を覗く行為は控えてくれると助かる」

「ええ、わかりました、善処しましょう。それにしても案外冷静なんですね。さっきまで帰してくれと騒いでいたのに今は頭の中を覗かれているっていうのにどこか他人事みたいに落ち着いて――――」

「……人って情報過多になると案外落ち着くものらしいぞ」

「ああ、そういうことですか」


 レイシスはこの答えに納得したようだ。


 まあ実際訳の分からない場所に連れてこられ光源がしゃべったり女神だったり世界を作った挙句、俺の作ったゲームをしていたら乗っ取られたとか情報量が多すぎて整理が追い付かない。


「う~ん、それでは少し整理する時間を設けましょうか?」

「いや、大丈夫だ。むしろ一度全部話してくれ」


 いちいち整理する時間を設けるよりは一度にすべて話してもらって後で情報整理する方が効率がいい。


「わかりました!では続きをお話ししますね。えっと、それで乗っ取られてしまって私がこの世界で持っていたあらゆる権利をその神に取られちゃったんですね。何とか抵抗して一部は守り通すことができたんですけど大部分をその神に奪われちゃって途方に暮れていた時あなたのことを思い出したんです!」

「俺?」

「はい!もともとこの世界はあなたが作ったゲーム、ゴブリンの王国の舞台であるアレクテムをもとに作ったんです!」

「まじか……」

「まじです!」


 レイシスの顔は見えないがドヤ顔しているのだろう。自信満々に肯定してきた。


 自然とため息がこぼれる。


 正直規模が大きすぎて話についていけない。


 頭を抱えるくらいには情報の整理が追い付かない。やはり整理する時間を設けてもらうべきだったか。


 まあでも一つだけこの女神について分かったことがある。それはこの女神様は本当に俺のゲームのファンらしいということ。それも数多作ってきたゲームの中でもゴブリンの王国をもとに世界を作るなんて結構な特殊性癖の持ち主でもあるようだ。


「はあ~いろいろ言いたいことはあるが一先ずメールの疑問が解決した。だからメッセージの件名にあなたのファンよりって書いていたのか」

「はいそうです!」

「……」


 呆れてか言葉が出ない。


 普通好きだからと言ってゲームを舞台にした現実世界を作るなんてしないだろ。それができるってことが神である証明になってしまうのが皮肉な話ではあるのだが……。


「それにしてもなんでゴブリンの王国なんだ?」

「え?それはもちろん私が一番大好きな作品だったからです!」

「あ~そう、ありがとう」

「もちろん他にも好きな作品はありますがやはりやりこみ要素といいエッチなシーンといいこの作品が私は一番好きですね。だからこの世界を作ったわけですが!」


 てへへと笑うレイシス。


 彼女のゲームへの熱意は確かに伝わってくるし、一製作者としては嬉しくはあるが今の状況で言われても正直こちらは全然笑えない。


 というのもこの世界が本当にゴブリンの王国を舞台にしているのなら地獄みたいな世界であるということだからだ。


 ゴブリンの王国は数多く作ったゲームの中でも人を選ぶコアな層向けのゲームだ。


 ゲームとしてはいたってシンプルなRPGゲームでプレイヤーはゴブリンなのだが国が発展するごとにゴブリンとして進化していく王道ゲームであり戦闘だけは少し特殊でタワーディフェンスとチェスを合わせたようなゲームとなっている。


 ゲームとしては普通なのだがどういうところがコア向けなのかというと成人向けゲームとして制作したこともそうだがエッチなシーン、いわゆる抜きどころは全部ゴブリンやら人外魔物が人間の美少女や美女を凌辱するシーンしかないこと。かつ妊娠や出産シーンまで入れているため我ながら凄い特殊な性癖の人向けに作ったなと思っている。


 そしてこの世界のことだがすごく殺伐としておりゲームの難易度は死に続けて攻略法を覚える死にゲーだ。つまり相当な鬼畜ゲーである。


 この世界は地球でいうところのユーラシア大陸ぐらいの広さの大陸が五つ、真ん中に丸い海を隔てて円形状に存在している。五つの大陸は二つを人間が一つを魔王が残り二つを亜人種がそれぞれ管理している。


 そしていつも大陸間で戦争を行っており、大陸の覇権をめぐって各大陸同士が日々戦いを繰り広げている。


 そんな世界をプレイヤー自身がゴブリンとなりゴブリンを操って大陸すべてを支配することが目標のゲームである。これがメインストーリーとなる。


 またサイドストーリーとして世界への復讐という目標もある。この世界のゴブリンは絶滅危惧種である。というか絶滅している。それはなぜかと言えばどの種族の雌だろうと孕ませることができるため忌み嫌われ世界共通の敵として殺されつくしたためだ。そのため唯一の生き残りであるプレイヤー自身は同胞の敵討ちをして復讐を完了しなければいけないというストーリーだ。


 ゲームを攻略するには戦闘に勝利し雌を捕虜として捕まえて凌辱して孕ませ戦力を増やすことがカギとなる。


 とまあそんな世界に連れてこられたわけで正直日本とは比べものにならないほどひどい世界ということだ。


「えっとそれでなぜ俺なんだ?」

「あ、そうでした!それはあなたがこの世界の生みの親だからです!それにこの世界については直人様が一番詳しいでしょ?」

「まあ確かにストーリーだったりの詳細は一番詳しいだろうがこの世界がもしゴブリンの王国を舞台にしているのなら肉体的に強いやつを連れてくるべきじゃなかったのか?」


 正直直人の肉体は一般人レベルだ。アルバイトで肉体労働をしてはいるため平均以上の体力はあるとは思うがかといってそれは平和な日本での話で戦争している世界では何の役にもたたない。


 自分じゃなくてもいいはずなのになぜ選ばれたのか理由が気になる。


「いえ、それができないんです」

「なぜ?」

「それは私がこの世界での神としての力のほとんどを奪われたことが原因です。奪われなければ誰でも召喚可能だったのですがその能力は向こうの神に持ってかれてしまい私にはどうすることもできず途方に暮れていたんです。そんな時あなたのゲームを元にしたことが原因なのかあなただけ召喚できることに気づいたんです」

「俺だけ?」

「はい!多分ですけどこの世界はゴブリンの王国を元に作ったでしょ?そのゲームを作ったのは直人様ですから実質この世界の神様でもあるわけでその縁であなた様だけは呼べたんだと思います!」


 暴論だ!


 声を大にして言いたいがそれだけ差し迫っているのだろう。神が人間なんかに助けを求めるこんな以上事態、逆に言えばこれをうまく利用すれば見返りはそれなりに期待していいのではないだろうか。


「もしこの世界をあんたの手に取り返すことができればそれ相応の見返りは期待してもいいのか?」

「―――!ええ、ええ!もちろんです!直人様の望み、目黒めぐろ綾香あやかさまの病の治療は私が引き受けましょう」

「そう、か……その治療は前借とかってできたりはしないのか?」

「あ、ごめんなさい、それは無理ですね。今の私にそのような力はないので、ただ―――!!」


 そう言ってレイシスは壁すれすれに近づくとクルりと回って見せた。


 すると地面から丸型のテーブルが姿を現した。

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