ゴブリンの王国

鐘上菊

第1話ゴブリン異世界に立つ(1)

 緑色の肌に小柄な体、鼻が異様に尖っており、生理的嫌悪感を感じる顔を持つそれはヨーロッパの民間伝承に登場する伝説の生物、その名はゴブリン―――


 今ではいろいろなファンタジー作品で最弱のモンスターや成人コミックの敵役など幅広い分野で活躍している。


 そんなゴブリンを題材に俺、目黒めぐろ直人なおとは一本のゲームを開発した。


 ゲームの名はゴブリンの王国、内容はゴブリンの司令塔となって国を築いていくいわばシミュレーションゲームだ。


 ただこのゲームは一般のゲームとは異なり十八歳以上の大人向けに制作したゲームだ。


 結構特殊な層向けに作ったつもりなのだが売り上げは悪くなく、六ケタを超えるくらいには売り上げがよい。


 またこういった成人向けゲームでも個人製作で六ケタを超えれば就職先へ向けた良いアピールポイントにもなる。


 このことをアピールポイントにいい会社に就職すればより多くお金が稼げる!そう考えていたのにまさかこのゲームのせいであんなことに巻き込まれるなんて……


 直人が給料払いの良い会社に入社したいのには理由がある。今唯一の家族の妹が心臓に重い病気を患ってい入院しているためである。


 直人は両親を高校の時に交通事故で無くしてしまい父方の祖父母に引き取られそこで暮らしていたのだがそこでの暮らしはあまりいいものではなかった。元々父方の祖父母の方とは仲が良くはなく、疎遠状態だった。ただ両親が交通事故で死に母方の祖父母はいなかったため仕方なく直人らを引き取るしかなかったらしい。


 もともと直人が高校を卒業すれば追い出すつもりだったようだが直人の高校卒業の前日に妹が倒れ心臓に重い病気を患っていることがわかると祖父母は直人と妹の綾香あやかを両方追い出したのだ。


 高校卒業と同時に追い出されることはわかっていたので弁護士と相談し卒業後のことは考えていたのだが綾香が病気で倒れたことは予想外であったため両親の保険金と高校の時に貯めたバイトとゲーム制作などで集まった資金をかき集め何とか入院まではできたのだが手術には集めたお金以上に必要になるためどうしても多くのお金が必要なのだ。


「ふぅ~、ん?ああ、もうこんな時間か。そろそろ病院に向かわないとだな―――とその前にメールを……ん?なんだこれ?」


 直人はパソコンに送られてきたメールフォルダを開くと見慣れないメールアドレスからのメッセージが届いていた。


 差出人不明のメール、ただ件名に”#あなたのファンより♡”とご丁寧にハートマークまで添えて書かれている。


「なんだこれ、迷惑メールか?」


 正直中身が気にならないわけではないのでとりあえず開いてみると中身のメールには明らかに怪しげな文章といくつかの質問が書かれていた。


 私はある世界を管理している女神であなたの作品の大ファンです。これはあなたならば私の期待に応えてくれると思いこのメッセージを送らせていただきました。どうか下記の質問に答え、私の世界をお救いください!


 そう書かれ下に質問分が続く流れとなっていた。


 明らかに怪しい…チェーンメールでももっとマシな文章だろう。質問に答えることで高いお金の請求が来るとかそんなんじゃないのか?


 質問の方にも目をやるがやはり怪しさが増すばかりだ。


 Q1.あなたは今何か願い事はありますか?


 願い事って…どんな質問だよ。いや質問事態には意味はないのか?それにしても願い事か……そりゃあもちろんある。綾香の病気を治す、それが今の俺の唯一の願い―――


「はあ~あほらし……こんな迷惑メールの質問に答えたところで綾香の病気が治るわけがないだろ、早くあいつのところに行こう」


 直人はこの迷惑メールをゴミ箱へ移動すると完全に削除して病院へと足を運んだ。


 病院へと向かう途中、花を何束か購入しバスに乗り目的地への病院へと向かった。


「目黒直人さんですね。今日も面会ですか?」

「はい」

「ちょっと待ってくださいね―――はい、確認しました。ではこちらお返ししますね」

「ありがとうございます、ではこれで」


 いつも様子を見に来ているためか受付もすぐに終わる。受付の方に軽くお辞儀をして直人は妹の病室へと向かった。


 病室の前まで来たので軽くノックをすると病室から少し小さいが返事の声が返ってきたので扉を開けて中に入る。


「よっ!調子はどうだ我が妹よ」


 部屋に入ると病衣に身を包み少し顔色の悪い女の子、妹の綾香がベットに背中を預けてこちらに顔だけを向けて微笑んでいた。


「ふふ、今日はね昨日よりは元気だよお兄ちゃん」


 顔色も悪く今もきついはずなのにこちらに心配させまいとそういって笑顔をこちらに向ける綾香の顔は天使のようだった、というか後ろに後光が見えるような気がする。いやうちの妹は天使なのだから後光くらい見えるはずだ。


「はあ~綾香は今日もかわいいなぁ~」

「もう、お兄ちゃんたら」


 そう言って笑う彼女もまた天使だった。


 花を新しく買ったものと変え綾香の隣の椅子に座って世間話などをする。これがいつものルーティンなのだが今日は少し早く切り上げることとなった。


「でね、隣の子はよくお花について話していてね、いつもお兄ちゃんが持ってくるお花の花言葉だったりを教えてくれるんだ」

「へぇ~そうなんっ―――!?」


 頭に電気が走ったようないや例えるなら頭を開けられ脳を直接ハンマーで叩かれているような頭痛が直人を襲う。あまりの痛みに前のめりに倒れそうになり慌てた綾香に支えられる。


「お兄ちゃん!?だいじょうぶ!?」

「あ、ああ。大丈夫だ、心配させてすまん」


 頭痛はすぐに収まったが一瞬頭痛がしたときテレビの砂嵐のような音と誰かの声がしたような気がするが何だったんだろう。


「お兄ちゃん本当に大丈夫?無理してない?」

「ああ、本当に大丈夫だから」

「本当に?今日はもういいから帰って休んで!お兄ちゃんまで倒れられたら私……」

「ははっ、大丈夫だって!ただそうだな、今日は早く帰って休むよ。」


 綾香に体調を気にされたので十五分ほどで切り上げ帰宅する準備を始めた。


「よし、それじゃあ俺は帰るからまた明日な」

「うん、気をつけて帰ってね、お兄ちゃん。本当に体調には気をつけてね、無理だけはしないようにね」

「おう、じゃあな」


 はあ~何だったんだあの頭痛……やっぱ疲労から来てたか?最近全然寝てないしな。もしかしたら過労かもだから綾香に言われた通り今日はもう帰って休もう。

 

 そうして直人は足早に家への帰路へとついた。


「ただいま~」


 あれから家に着くまでは特に頭痛などはなく心配は杞憂だったかもしれないと胸をなでおろす。


 誰もいない家に帰宅したことを告げ、部屋に入ろうとしたときほっとしたのも束の間、何の前触れもなく再び病室で襲った頭痛が直人を襲う。


「うぐぅっ―――‼」


 何とかふらつきながらもベットにたどりつくと顔からベットへダイブする。


 ベットに横になっても痛みは治まらず頭を抱えているとスマホのバイブが部屋に鳴り響く。


「なん……だ、よ、こんな……時に!」


 痛みでそれどころではないがなぜかバイブが鳴り止まないため痛みを堪えながらスマホを確認するとSNSのメッセージアプリに先ほどメールで見た差出人不明のメールと同じことが書かれていたメッセージが届いていた。


 どう、なってるんだよ……。


 このアプリは友人以外からのメッセージの送信は受け付けていない、にもかかわらずメッセージが届いたので戸惑いを隠せないでいる。


 どうなっているのか、ハッキングされたのか考えることは山ほどあるが激しい頭痛がそれを許してくれない。


 痛みに苦しんでいると再びメッセージが送られてきたので確認すると驚愕する。


「差出人不明:今あなたは頭痛に苦しんでいるのではないですか?」


 そう書かれたメールは今の現状を的確に書かれていたため寒気を覚える。


 ただ向こうの差出人はこっちの事情など知る由もなくまたメッセージが送られる。


「差出人不明:パソコンに送らせてもらったメール、どうして無視されたのですか?まあ迷惑メールと思われたのでしょう。仕方のないことですが全部見てくれないのは少しひどくありませんか?メールの最後の方に削除した際のこともしっかりと載せていたのですが……。まあいいでしょう。今もう一度同じ内容のメールをこちらに送らせていただきました。今度はしっかりとお答えくださることを願っています。」


 送られてきたメッセージの下の方を見てみると削除した際は激しい頭痛があなたを襲います、そう書かれていた。


 意味が分からないしなんでこいつはこちらの事情を知っているのかやどうやってメールしているのか気になることは山ほどあるが頭痛がどんどん激しくなるばかりで一向に良くならないので藁にも縋る思いで送られてきたメールの質問に回答する。


 Q1.あなたは今何か願い事はありますか?


 それはもちろんある、だ。にしてもどうやって回答すればいいんだ?


 返信しようにもなぜかエラー表示が出て送られない。すると向こうはこちらの現状を理解しているようで次のように指示が送られてきた。


「差出人不明:そちらからはメッセージを送れないようになっています、申し訳ございません。メールへの回答はで回答していただければと思います。」


 そう書かれたメールが送られてきたが理解できない。


 頭の中で答えろってどういうことなんだ?頭の中を覗くことでもできるというのか!?


 ただもう頭の方は頭痛のせいで考える余裕などはなく素直に差出人不明の指示に従うしかなかった。


 改めてQ2.をみる。


 Q2.あなたのその夢は他人を蹴落としてでも叶えたい夢ですか?


 俺の夢、綾香の病の治療、他人を蹴落としてでも叶えたいかと言われればはいと答えるだろう。


 今ある社会は他人を蹴落とす場面は多くある。受験や入社など相手を蹴落とさなければ自分の望む未来は掴めない。他人を蹴落として綾香の病が治るのならば俺は何人でも他人を蹴落とせる。


 一瞬、痛みが和らいだような気がした。ただの気のせいなのかもしれないがもしかしたらこの質問に答えていくことでこの頭痛から解放されるのかもしれない。


 Q3.あなたには何者にも代えがたい大切な人はいますか?


 いる。綾香さえいてくれれば俺は他にはなにもいらないと言い切れるだろう。


 Q4.その人のためならばその人が味わってきたまたこれから味わうであろう痛み、苦しみを肩代わりすることはできますか?


 できる。俺がそれを常に願っていることだから。


 Q5.あなたはその人のためならば人を殺せますか?


 !?………………――――できる。


 Q6.その人のためならば世界を敵に回せますか?


 世界を敵に、か……どんなに醜くても綾香のためならば足掻いて見せる。俺は綾香のためならば世界だって敵に回せる。


 メッセージの質問はこの六問で終わりだった。


 これは何のための質問なんだ?


 そうこうしていると差出人不明からまたメッセージが送られてきた。


「差出人不明:お疲れ様です。回答の方はありがとうございました。頭痛、治まりましたか?」


 メッセージをみてそういえばとなる。いつのまにか頭痛は消えており先ほどまでベットで苦しんでいたのが嘘のようだ。


「差出人不明:あなたの回答、実に私の予想通りいえ、予想以上でかつ私好みでとてもうれしく思っております。それでは準備も整いましたのであなたをご招待いたしますね。」

「招待?」


 次の瞬間、視界が暗転する。そしてどこまでも落ちていくような感覚になる。


 叫んでいるはずの自身の声も聞こえてこずゆっくりと意識もまたその暗闇へと落ちていった。




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