第39話 夢のまた夢

翌日。

秀吉と北条家の子は、会って話をした。


北条家の子「……どうして、父が切腹を」


秀吉「北条家が惣無事令をやぶった責任をとって」


北条家の子「惣無事令を破ったのは父じゃなくて僕です」


秀吉「わかってる」


北条家の子「父はとっくの昔に僕に家督をゆずりました。北条家の当主は僕なんです。責任者は僕です」


秀吉「家督をゆずっても親は親だから、って」


北条家の子「そんな…」


秀吉「息子が迷惑かけてすいません、って」


北条家の子「……僕も腹を切ります」


秀吉「お父さんはさ、自分の死で乱世を終わらせようとして死んだんだよね。だから、これ以上人が死んでも、喜ばないんじゃないかな」




西暦1590年7月20日。

北条家の子(北条氏直)は高野山に入り僧となった。


ここに大名としての北条氏は滅亡した。

この年、秀吉に抵抗する勢力はなくなり、日本列島は統一された。




ある朝。

秀吉は大阪の城で庭を眺めていた。

すると……


北条家の父「やあ!」


秀吉「わっ。北条家のお父さん!」


北条家の父「死んだはずなのに登場してみました~」


秀吉「生き返ったの?」


北条家の父「いや、霊界からフラッと遊びに来たの」


秀吉「幽霊ってことね」


北条家の父「これからも、ちょくちょく遊びに来るよ」


秀吉「怖いよ」


北条家の父「外出自由なんだよね、霊界」


秀吉「意外とゆるいんだね」


北条家の父「今度はもっと幽霊っぽくあらわれてみる?」


秀吉「いやだよ」


北条家の父「おもに夜中とか遊びに来るから」


秀吉「だから怖いって」


北条家の父「じゃあ早朝。5時半ころは?」


秀吉「それは普通に迷惑だよ」


北条家の父「またまた~。嬉しいくせに」


秀吉「なんかさぁ、死んだらちょっとテンション高くなった?」


北条家の父「新天地での生活に浮かれてるからね」


秀吉「楽しそうだね」


北条家の父「じゃあ、せっかくこっちの世界に来たんで、ちらっと息子に会ってくるわ」


秀吉「そうだね」


北条家の父「生きてる、よね?」


秀吉「もちろん」


北条家の父「ありがと」


秀吉「ありがとってこともないけど」


北条家の父「息子は今も大名やってるの?」


秀吉「ううん。今はお坊さんに転職したよ」


北条家の父「そっか。そういうのもいいよね」


秀吉「うん。いいと思う、すごく」


北条家の父「じゃあ、どっかのお寺にいるんだね」


秀吉「高野山だよ」


北条家の父「おお~。それは名門だ」


秀吉「そうだね…」


北条家の父「……ん、なに?」


秀吉「いや、べつに」


北条家の父「べつにって何さ」


秀吉「なんかさ、幽霊と話してるのって、ちょっと夢みたいだなと思って」


北条家の父「夢かもよ」


秀吉「まさか。だって、つねったら痛いし」


北条家の父「そこの葉っぱ」


秀吉「え?」


北条家の父「そこの葉っぱにさ、さっきまで朝露がついてたの、知ってた?」


秀吉「いや、ぜんぜん」


北条家の父「でも、僕たちがこうして話してる間に、消えちゃった」


秀吉「それが、なんなの?」


北条家の父「実際死んでみて思ったんだけど、自分の人生もそんな朝露みたいな感じだったのかなって。しずくみたいに生み落とされて、いつの間にか消えている、っていう」


秀吉「朝露かぁ」


北条家の父「人生まるごと、夢のまた夢みたいなさ」


秀吉「その言葉、僕の胸の中で大事にしちゃって、いいかな?」


北条家の父「いいよ」


秀吉「ありがとう」


北条家の父「じゃあ、もう行くね」


秀吉「気をつけてね」


北条家の父「うん。またね」


秀吉「またね」




父の霊は高野山に消えた。




西暦1598年8月18日。

豊臣秀吉、病死。


まずしい農民から天下の覇者となった男の、波乱の人生が終わった。

秀吉が死の床で残した歌がある。




つゆと落ち 

つゆと消えにし我が身かな 

なにわのことも夢のまた夢




【意味】

露のように生まれ落ちて

露のように消えていく人生

大阪で過ごした日々も

遠い夢のよう




豊臣秀吉 完

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豊臣秀吉~歴史が苦手でもスラスラ読める伝記~ あーりー @toritamagox

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