#2 神様の紐

 これは俺が小さいときに体験した話だから記憶もあやふやなんだけど、今考えるとちょっと不思議な体験だったと思ったから書く。細部とか覚えてないとこも多いからわかりにくい文章になると思うけど良ければ付き合ってくれ。


 俺がまだ5歳とか6歳とか、小学校に入る前に住んでいた村での話。その村は町からはなれた山間の間にある、いわゆるド田舎だった。そこに、祖父母と両親、俺の5人で暮らしていた。


 ある日、じいちゃんが夜に帰ってきて「わしになった」とだけ、つぶやいて風呂に行こうとした。それを聞いたばあちゃんと両親は慌て問いただすも、じいちゃんは「集会で決まったもんやから」「誰かがやらんといかん」みたいなことを言うだけで、それ以上は何も言わなかった。


 それから何日か経った日、村の中を1人で歩きまわっていると、坂の一番上にある神社まで来てしまった。当時はまだ小さかったから家から500mもない距離でも冒険に感じて、わくわくしながら神社に立ち入った。


 階段を上り鳥居をくぐると村の大人が5,6人立っていて、全員が真っ白の恰好をしていた。後から聞いた話が、大人はそれぞれの地区の長だったらしい。それから、小さなお社の前に紺色の和服?を来たじいちゃんが立っていたから、思わず、じいちゃん!と呼んだ。じいちゃんはびっくりして、白い大人と何かを話し込んだ。そして俺に「ここにいてもいいけど、終わるまでしゃべらずに、じっとしていなさい」といつもと違う、重たい口調で話しかけてきた。あまりの剣幕に頷くことしかできなかった俺は、大人に手をつながれ、お社の前に立つじいちゃんを後ろから見ていた。


 じいちゃんはお社に向かって何かを唱えながら、葉っぱを振り回したり、水(酒?)を撒いたりして、あたりを歩き回った。それが終わると、じいちゃんは懐から何かを取り出した。赤や緑の毛糸のようなものを同系色で10本程度集め、紙で束ねたもの。それを6束ほど取り出し、開け放たれたお社に並べていく。異様な光景に目が離せなくなっていると、今度はお社の前で同じように唱え始めた。


 20分経ったのか30分経ったのか、そのくらいのころに、突然山がざわつき始めて強い風が俺の体を通り抜けた。ただ風が吹いたのではなく、全身で受けたような感じがしたから余計にびっくりしてじいちゃんのほうを向いた。じいちゃんはこっちを向いて「神様がお出でになった」と一言だけつぶやいて、またお社にむかってブツブツと唱え始めた。


 それからまた何分経ったのかわからないけど、ぼーっとじいちゃんを見ていた。気がついたらじいちゃんはお社に礼をし、こちらに振り返り小さく頷いた。それから、大人たちと少し話していた。一人に「○○さん(忘れた)、この子を家までお願いします」と言い、俺はその人に連れられ家に帰った。帰ったらこっぴどく叱られたが、正直ずっとぼーっとしていたせいでこのあたりもあんまり覚えてない。


 後日じいちゃんから聞いた話。あの神社には神様がいなかったから、神様に来てもらったらしい。その時に使用したのがあの赤とか緑の紐状のもので、あれは他の神社に頼んで貰ったものと言っていた。それから「本来は外に漏らしてはいけないが、見てしまったものはしょうがない」とも言った。その他もいろいろ言っていたが、難しい話が多くて忘れてしまったし、その後に聞いても「忘れろ」というだけで二度と答えてはくれなかった。


 それ以降、特に何かあったわけでもないし、じいちゃんは87歳まで元気に生きてたし、俺も40歳過ぎたけど何もない。思い出してみると、酒や祝詞のようなものは理解できるが、あの紐だけが謎である。オチのない幼少期に体験した不思議な話。

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