第5話

 その日は高校受験が終わって、季節外れの海へ来ていた。

 来た理由は無かった。暇だったから来た、それだけ。

 ぼーと海を眺めていると白い服を来た、女の子が近くに来た。

 それが夏姫だった。

「何してるの?」

「海を眺めてた」

 彼女は私が返答する前に私の隣に座った。

「私も一緒に見てていい?海」

「いいですよ」

 彼女は微笑んだ。

 その時は厄介な奴と思っていたが少しずつ話していると彼女はとても花のように美しく、可憐だった。

「私夏姫。夏のお姫様って書くの」

「鈴夏。猫がよく付ける鈴に夏」

 夏姫と話していたら同じ歳でこの春から同じ高校に通うことが分かった。

 その日は暗くなるまで夏姫と喋った。

 その日は満月だった。

 入学してからはずっと二人で居た。

 夏姫の隣は居心地が良かった。とても安心した。

 夏姫の膝で膝枕したときは日向ぼっこしている気分だった。

 なのに涼太が夏姫を誑かした。

「許せない」

 いつの間にか意識は夕暮れの海に戻っていた。

 夏姫を誑かして汚す奴は全員殺す。

 それが自分であっても。

 涼太のトドメ刺しにいかないと。

 カバンが震えた。

 震えてた元はスマホだった。

 お母さんから着信だ

「鈴夏!あんた今どこにいるの。涼太くんが家で血まみれで倒れていたの。あんた何か知らない?」

 お母さんの怒鳴り声が聞こえる。

 無言で切ってスマホをカバンに入れた。

 カバンの中には今まで夏姫にもらった物やナイフが入っていた。

 なんでお母さんにバレたんだろう。

 ふとカバンから目を離して、海を見た。

 もう一度カバンの中身を見ると夏姫にもらったものが汚れていた。

 とっさに一つ手にとって海に投げてしまった。

 そしたら、汚れていたものが海の水に流れていった。

 汚れているのはきっと幻覚。

 分かってる、分かっているけど。

 カバンに入っているものを全て海に投げ入れた。

 一つ一つ丁寧に夏姫との思い出を思い出しながら。

 これは初めて二人で遊びに行ったときに買った、ペンとキーホルダー。

 このペンは夏姫から勉強教えてもらったときに貰った。

 カバンの中を見ると、ナイフしか残ってなかった。

 このナイフと夏姫は無関係だから捨てなくてもいい。

「疲れた」

 もうすぐ日が沈む。帰らないと。

 帰ろうとしたらふと耳にふれた。

「ピアス…まだ汚れている」

 ピアスを取ろうとした。

 「待って、この耳に穴開けたの夏姫じゃん」

 カバンの中にあったナイフを取り出した。

 耳にナイフを近づけた。

 大きく深呼吸をした。

 刃が耳の付け根に食い込んだ。

 痛い痛い!!

 痛みが体全体に染み渡る。

「取れた‥」

 体感2時間くらいなきがするけど夕日がそこまで沈んでないからそこまで時間は立っていないだろう。

 少し生温かい耳を海に投げ入れた。

 耳を切った時から息がいつも以上にあがっている。それに耳からの出血が止まらない。

 耳があった場所がまだ温かい。

 砂の上に自分の血が落ちてくる。

 汚れてる。

 胸の中に再び芽生えてきた感情、涼太を殺した時と同じような感情が湧き出てきた。

 海に向かって歩いた。歩き続けた。

 膝辺りに水が浸ってきた。

 入水自殺は死体が見つかったら、体が水を吸収して誰だかわからない状態になるらしい。

 もし、私の死体が見つかったら夏姫は私だって分かるかな?

 そのまま水の中を歩き始めた。

 水の中を歩くのは不思議な感じだった。

 空を歩いてる感じ。ふわふわする。

「自由だな」

 あと数歩歩くと溺れるところまで来た。

 夜空を見て、目を閉じて歩き始めた。

 最初に水が口の中に入って来た。その後に足が地面につかなくなった。

 水が胃の中に入ってくる。

 苦しい。

 目を閉じる前に見たものは、夏姫と最初に喋ったあの日に出てた満月だった。

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