第4話
「お母さん、行ってくるね」
「どこに行くの?」
「涼太の家。勉強教えてもらう」
家を出て、セミが鳴く道を歩いた。
歩いて五分くらいでついた。
インターホンを鳴らすと半袖の涼太が出てきた。
「どうした、親と喧嘩でもしたんか」
「なわけ、勉強しよ」
涼太が家に上げてくれた。
ここから始まる。
夏姫のあの笑顔を思い出した。
無防備な背中が見える。
カバンの中から包丁を取り出した。
「涼太」
声をかけて涼太に近づいた。
「どうした…」
涼太を押し倒して、腹に包丁を刺した。
最初は押し倒せないかと思ったけど、難なく倒れてくれた。
「なんだよ、急に。押し倒して…」
涼太はびっくりしていた。
まだ喋れる。普通だったら喋れないでしょ。
バカじゃん。
「なんでこんなことするんだよ」
「夏姫があんたのこと好きだから」
夏姫と涼太が話しているところを思い出してしまった。
夏姫が楽しく、私に見せない顔で笑ってる。
感情が高ぶって、包丁を直角に回した。
涼太はカエルが轢き殺されたような声をあげた。
「汚れているものは処分するの。夏姫のために」
「汚れてるね…それはお前もだろ」
涼太はナイフを掴んで、言った。
「汚れている同士一緒に死のうぜ」
涼太の手をナイフから剥がし思いっきり踏んだ。
「あんたと一緒にしないで。私は汚れていないし、死ぬ理由もない」
「俺はお前が好きなんだよ。お前に間違った道を進んでほしくない」
「だからここで一緒に死のうぜ」
そんなんで私の気持ちは揺るがない。
それに涼太がいくら私を思っていても、夏姫があんたを思っていることに変わりはない。
涼太は汚れている。夏姫を誑かした。
だから夏姫は涼太のことが好きになったんだ。汚れている。
じゃあ、私はどうなんだ?
涼太を汚れていると判断して、夏姫のために涼太を殺しかけている。
私も汚れているんじゃない?
両手についた赤い液体を見た。
ドロドロしている。気持ち悪い。
手に持っていた包丁を落として、外を出て走り出した。
嫌だ。認めたくない。
気づいたら海に居た。
涼太の家から海は比較的近いけど、結構遠いところまで来た。
「夏姫」
ここに来るといつも思い出す。
夏姫と初めて会った日のこと。
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