第6話 線分;つながる2点・後編(残り96日)
00:15
サーモン&オニオン、ケッパー入り。ベーコン・レタス・トマト、あとたまごサンドにはキュウリ必須。}
00:19
『ターヘル・アナトミア』。ドイツ人医師ヨハン・アダム・クルムスが書いた解剖学書}
00:22
ま、インドア派です。以上回答終わり}
◇
目を覚ますと時計は10時を回り、昼間が近づいていた。
あと数か月の命だというのに、まったく贅沢な時間の使い方だ。
携帯をチェックするも、返信は無し。
やっぱ怒ってるんだろうな。どうにも拗らせちまったかな、と頭を搔く。
朝昼兼用の食事。ソーセージが冷蔵庫にあったはず……あとはレギュラーメンバーの目玉焼きとトースト、牛乳。
目玉焼きは塩コショウ派だ。ソースも醬油もいらない。トーストにはバター一択。
平穏な土曜日の朝だ。いつもどおり、静かで、空虚。
そんな感じで影麻呂が食事の余韻に浸っていると、滅多になることのないインターホンの呼び出しベルが鳴る。
荷物なら置き配指定しているはずだが、果たして。
玄関のドアを開けると、そこには予想にしない光景があった。
「はーい。ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」
私服姿のソラナだ。いつもと何が違うというわけでもないが、初めて見るフォーマルな装いは、とても刺激的だった。何なら、その豊満な胸を少しばかり強調していないか? 影麻呂は、その自然が少女の胸に集中していることに気付き、頭を振った。
「おい、どうしてここが」
「私は超一流のヴァンパイア・ハンターよ。追跡、尾行はお手の物」
「俺を着けてたのか、いつだ……いや、そんなことよりも。くそう。呪力さえあれば、お前の尾行なんて簡単に気付けたんだ」
「ふふーん。どうかしらね!」
ニコニコ顔のソラナを見て少し安心した。どうやら怒ってはいないようだ。
気になるのが、その肩から下げているクーラーボックス。釣りで使うようなアレだ。
「何の用だ? 部屋には上げんぞ」
「今は一人なのかな? 家の人はいないの?」
「両親は、俺が小学生の時に死んだ。今はここで一人暮らしだ」
そんなエロゲの主人公みたいな設定あるのかよと思うかもしれないが、事実だった。
「そ、そうなんだ。だから、自分で料理もちゃんとしてるんだね」
ショックだったのか、声のトーンが下がる。
「いや、料理って程のことはしてないぞ。両親のことは別に気にするな。金は十分に残してくれたから、困ってはいない」
「うん。私、話を聞くのは大好きだから、その気になったらいくらでも話してね。今日はサンドウィッチを作りすぎたから、ちょっとお裾分け」
そういってクーラーボックスを差し出すソラナ。困惑する影麻呂。
「もしかして。これ、全部?」
「しゅあ」
「イギリスではこういうイジメが流行っているのか?」
「もう、そんなわけないでしょ」
「料理スキル上げるために、サンドウィッチ・マラソンしたとかそういう……」
「?」
ソラナの頭の上に大きなクエッション・マーク。ロールプレイングゲームとかはあまり詳しくないようで。
「あ、そうだ。小腹が減ったから、夜食に始末しておいた。さんきゅーな」
そういって昨日の弁当箱を返却する。
すると蕾から花が咲いたように、ソラナの顔に満面の笑顔が広がった。
「ねぇ、どうだった。私もサンドイッチ伯爵の一員かな」
「いや、まあ、普通? サンドウィッチの味がしたぞ。あと、サンドウィッチの界隈は広いから、簡単には伯爵にはなれないと思う」
「そうかぁ。他人に食べてもらうの初めてだったから、ちょっと不安だった」
じゃあ、これとクーラーボックスを差し出す。
「ああ、じゃあな。」
影麻呂は手を振る
「また、月曜日。学校でね!」
影麻呂はそっと胸をなでおろす。
彼の残コミュニケーション・ポイントはほぼゼロだ。
この休日を通してゆっりくと回復すべきところ、突然のイベントに調子を狂わされかねないところだった。
影麻呂は半笑いの顔でソラナを見送る……
……
……
それでいいのか?
「な、帰るのか? コーヒーくらい飲まないか。いや、家に入れとかじゃなくて、近所にいい店があるんだ。お前だって、来て帰るだけじゃ、退屈だろ?」
ソラナはきょとんした顔で
「もう12時だよ? おうちに帰ってお昼ご飯食べようと持ってたところなんだけど……」
「おお。そうか。腹減るもんな。ごめん、変なこと言って……」
「えーなになに。いこーよ、喫茶店。私のお昼ご飯なんかにプライオリティ負けちゃダメだよ」
「お、おう」
なぜ、ソラナを引き留めたのか。その理由を影麻呂は自分自身答えることができなかった。今だって、もうこれ以上、彼女と一緒にいたくない気持ちもある。
定められたタイムリミットは、確実に一人の少年を変えようとしていた。
影麻呂の死ぬまでにしたいこと
①ファーストキス
②ソラナの(尻の)絵の完成
③『セイント・マッスリート4』のトゥルーエンド・クリア
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