第2話 裸の特異点・後編(残り99日)


「やっぱり男子ってエッチな事ばかり考えてるんだね」


「そうだが。なんだ怖気づいたか? エッチなことはやりたくありませんってか」


「ううん、そうじゃない。こういう展開はあるんだろなと予想はしてたんだけどさ、私って男子のこととかあんま詳しくないから、やっぱりそうなんだって感じなんだよね。だいたい何でもお願いできるってときに、じゃあ最初はエッチな事って、そういう発想が男子だなって。私だったらまず最初はディナーでも奢ってもらうとか、神戸ビーフとか、回らないお寿司とか。ううん、金額じゃあないよ。おいしい手料理をふるまってもらうとか、他にもあるんじゃないかなって。そう、思っただけだよ」


 そ、そうか。エッチな展開は予想済みなのか。いったいどこまで想定しているのやら。不意にソラナの唇に意識を向けてしまう。俺のファースト・キス、奪われてしまうのか?いや、この場合、俺が奪うのか?奪わさせるのか?。ファースト・キス、確かに死ぬまでにはクリアしておきたいイベントよなぁ。でも、そういうのって雰囲気とかが大事でしょ。無理矢理にしましたよ感があると台無しなんだ、やっぱり人生で一度のイベントだし、ギリギリまでは慎重に考えるべきだよななどと考えつつ、これ以上彼女のプルンとした唇を見つめていると、劣情に身を任せそうになるのでいったんは雑談に切り替えることにした影麻呂。


「おいしい手料理か。じゃあさ、お前の得意料理を教えてくれよ」


「無理だよ。イギリス帰りだよ? 料理なんかできるわけないじゃん」


「いきなり祖国をディスってんじゃねぇよ。たしかにイギリスは料理がまずいって言うけどさ」


「私クォーターだけど、別にイギリスとは無関係なんだな、これが。みんな勘違いしてるけど」


「自虐でもないのかよ!じゃあ、イギリス人に謝ろうな。」


「ではでは薄く切った二切れのパンの間に肉や野菜など挟んで食すのはどうでしょうか。これなら片手で食べられるし、指も汚れないので、トランプをしながらでも食事ができますよ」


「サンドイッチな。もうありますよ。お前でも作れるっていいたいのね。わかった、わかった。――それとな、俺だって別にエッチな事ばかり考えているわけじゃねーからな。こういうのは一番言いだしにくいことを最初にやるもんだろ。お前だって、その方が安心じゃないか」


 いや、何が安心なんだ。もう言ってることが無茶苦茶だった。


「ふーん。じゃあ、ちゃちゃっとそのエッチなことの続きをしようか」


 そういうとソラナは両袖のボタンを外す。


「まぁ、待て。上着はいい、下だけ脱いでもらおうか」


「し……下だけって、すごく変態だね」


「ああ、俺は変態だ。それは否定しない」


 服の上から見るだけで分かる。ソラナは余裕のGカップ。

 「見てみたくはないか?」ともう一人の影麻呂が問う。

 ああ、見てはみたいさ。だが、彼にはどうしても果たさねばならない野望があった。


 ソラナはスカートのホックを外し、勢いよくそれを脱ぐ。

 白い下着が露わになる。

 ま、眩しい。いや、眩いまばゆい


「あーあー、オーケイだ。そのまま後ろを向いてー、パンティは脱がなくていいからなー」


 ソラナは180度回転すると白い布に包まれた大きなお尻を影麻呂に向けた。


「パンティなんて呼び方、ドラゴンボールの世界だけだよ。本当に脱がなくていいんですか、ご主人様?。覚悟はしてきてるよー」


「覚悟は後にとっておけ。ここからが本番なんだよ」


「うわー怖くて震えちゃう~」


 挑発的なソラナの声も届かなかった。

 影麻呂は遂に目にしたのだ。求め続けてきた至高の曲線美に。


 「尻だ、尻曲線だ」


 初めて出会ったその瞬間から、影麻呂の脳内に警鐘が鳴り響いていた。

 コイツはとんでもない逸材がやってきたぞ。

 平凡な日本の女子高生では到底到達できない究極の美尻。

 途方もない筋肉の修練と、それでもなお美性を失わない遺伝子のマリアージュ。

 例えるならアニメ「フランダースの犬」の少年ネロが、人生の最期に見てみたいと願ったルーベンスの2枚の絵。

 もし、俺が死ぬならこの尻を眺めて死のう。そう願ってしまった。

 願ってしまったから、こうなっているのだった。

 

「もしかして、これで終わりですか? パンツ見せて終わり? それって逆に私がバカみたいじゃないですか、自信なくしちゃうな」


 軽く腰を振るソラナ。この女、どうにもすぐ調子に乗るのだ。


「拳骨一つ分、股を開いて」


「こ、こうですか? え、蛇崩君。何をやっているのですか、怖い、怖いよぉ」


 ブフーン、ブフーンと深い鼻息の音。

 影麻呂は、突如言葉少なくなり、それでいて強い圧のようなものを全身から放っていた。

 カタカタと音はするものの、背を向けているソラナからは影麻呂の姿が見えず、いったい何が起こっているのか分からなかった。

 なぜだか、触られたりはしていない。


「だから、蛇崩君と呼ぶなと言ってる!ソラナよ。その鍛え抜かれた肉体。出会ったその日から、これはもうじっくり観察させて貰わねばならんと思っていたのだよ。特に美しいのが臀部から太もも、ふくらはぎ!まさにケツになるために生まれてきた大殿筋。王者の風格漂う圧倒的な大腿四頭筋。そして、トリを飾るは女性を最も美しく輝かせる下腿三頭筋。大地に突き刺さる凛としたその佇まい。我これを聖剣エクスカリバーと命名せり。」


「変態だとは言ったけど、キミって本当の変態じゃないですか、やだよー。他人のふくらはぎに勝手に名前付けないでよね。それに、ふくらはぎは左右にあるのよ。エクスカリバー・左、エクスカリバー・右って呼べばいいの?そんなんじゃ、もうお嫁にいけないわよ」


「うるさい!奴隷という立場が身に染みて理解できたか」


じ、人権て大事なのねと納得するソラナ。


「な、中を視たり……触ったりはしないの?」


「視る! そして触る!だが、それは今日じゃない。俺はなぁ、最高のヌードモデルを前にして、最高の絵をキャンバスに描くのが夢だったんだよ。それ遂に叶う。だがな、キャンバスを前にしたとき、一切の邪心や下心、劣情は許されないんだ。だから今日はパンティは脱ぐな」


「え、エッチなのは一緒ですよ?」


「違う、断じて違う。こうして、パンティ越しでお前の尻を眺めるのが、今の俺のギリギリの限界だ。だが、それはまだ俺に免疫がないだけだ。毎日だってお前の尻を見つめ続け、そうして俺は無垢の赤ん坊のような清らな気持ちでお前の本当の尻を白いキャンバスに描ききる。それを抱いて……俺は死ぬんだ」


 尻、尻ばかり見られて奴隷はつらいな。涙が出ちゃう。だって女の子なんだもん。複雑な感情が少女の脳裏を駆け巡る。


「そ、それなんだけどさ。死ぬ必要はないよ。きっと何か方法があるはずだよ、最後まであきらめちゃだめだよ」


「俺は、どうせあと99日の命なんだ。その間は俺は飽きるまでお前の尻の絵を描き続ける。俺の権利だ。ソラナもその間だけの我慢だから」


「間違ってる……こんなの絶対に間違ってるよ。」


蛇崩影麻呂、彼は死を前に燃え上がる蝋燭だった。

ソアラを悩ませるのは彼の変態性などではなく……



影麻呂の死ぬまでにしたいこと

①ファーストキス

②ソラナの(尻の)絵の完成

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