初恋
なんとか週四日、一日六時間の仕事を回していたフーリエにも顔見知りが出来た。初日資材の前で一緒に説明を受けていたランド・デロイドも、そのうちの一人だった。
筋骨隆々の彼は時々、他の作業員の目を盗んでフーリエの手伝いをしてくれたりもした。
休憩時間、フーリエは缶コーヒーを一本多く買って、同じく休憩中のランドの元に行く。
「いつもありがとう。これ足りないかもだけど、お礼」
「あっ、ありがとう。悪いね」
「ランド、あなた凄く力強いね。なにかしているの?」
「うん、大学でウェイトリフティングをしている。だからこういう仕事は全然苦じゃないんだ」
「ほんと! 大会とかでいるの?」
「うん、来週大会なんだ」
太い指で器用に栓を開け美味しそうにコーヒーを飲む姿は、彼女の脳裏に祖父バングの姿を思い起こさせた。それは本当に淡い気持ちだった。少し胸が狭くなる。
「来週なんだ。見に行っても良い?」
「いや、仕事を休んで行くから、君は行けないと思うよ」
「そうなんだ、……残念。でも結果、楽しみにしているから頑張ってね」
「ありがとう。さあ、もう休憩も終わる。コーヒーご馳走様。残り一時間半頑張ろう」
「うん」
その日の帰り道、久しぶりにフーリエはカーオーディオをかけ、鼻歌を纏いながら帰宅した。
体の節々が悲鳴を上げながらもフーリエはアルバイトを頑張った。
アストレのバッグ、アストレのバッグ、……それとランド。
彼女の中でランドの存在がどんどん大きくなっていった。仕事終了一時間半の休憩には、いつも彼に缶コーヒーを持っていく。そして色々と他愛のない会話を楽しむ。仕事は大変だったが久しぶりに楽しいと感じられる瞬間だった。
「明後日ね、大会。今日も働いて大丈夫なの?」
「うん、一日休めば大丈夫だよ」
「入賞が目標なんでしょ?」
「明日を目標にずっと調整してきたからね。去年の記録を見るといけるはずなんだ」
「ほんと、私も楽しみ」
ランドと日にちを合わせて働き、こうして休憩時間に一緒にコーヒーを飲みながら、お互いの事を話す。このひと時がフーリエにとって物凄く暖かく、嬉しい時間だった。これが恋なんだと気づくのにも時間は要らなかった。
四日後。今日は二連勤の最終日でフーリエには疲労の色が見えていた。だけどランドが来たら元気になれる、と思いつつも、朝の点呼時に彼の姿は無かった。
どうしたのだろう……。
一抹の不安を抱えながらも朝礼は終わる。ランドが来ていないことに現場の副主任も困惑した表情だった。
ランドもいない、おまけに彼の手伝いもない今日の仕事は、フーリエには過酷だった。
ランド、バッグ、ランド……。
ブツブツと自分に言い聞かせながらその日を終えた。
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