過去語り②

 開店の準備をしながら俺はこの世界に来る前のことを思い返していた。 というかあんまし思い出したくないのだが、今朝見た夢を見た後は昔の事をつい思い出してしまう。 とはいっても何かそんなに大それたことは特になく、オチを言えばあの世界で俺をほめてくれる人は一人もいない、何もかもすべてを奪われて捨てられてもかまわない、そんな存在だったってだけだ。

 まだあっちの世界にいた時、俺は突然王国から勇者と呼ばれて城まで行ったのだが、周囲の目はどこか汚物を見るような目をしていたのをいまだに覚えている。 

 国王の謁見の後勇者を筆頭に聖騎士、剣聖、聖女、賢者の5人は周りの人からの拍手喝さいを浴びながら正門から出てきた、しかしそこに俺の姿はなかった。 俺は誰もいない裏門から一人追い出されるように聖剣と食べ物をもらって魔王城まで向かうことになった。 最初は寂しい気持ちになったがきっとこれをやればほめてもらえる、小さな希望を持って旅に出た。

 途中で勇者パーティーと合流することができたが、連中の眼は他の連中と同じようにごみを見るようなそんな目をしていた。 

 それからは勇者パーティーの雑用はすべて俺がやっていた。 食事に洗濯、旅道具の準備など。 ただ宿に泊まるときは俺だけボロ小屋をあてがわれたり、野宿では寝ずの番、料理もまずければ殴られたり蹴られたり、魔法を浴びせたり今にして思えばDVじゃね?と思えてしまう。

 ちなみに戦いと言えば、俺一人で魔獣に特攻するスタイルだ。 他の奴らと言えば勇者である王子を守って戦っている。 どんなにボロボロであっても聖剣の力でえいえんに戦い続けている。 それが終わっても雑用をしなくてはならない。 

 当時の俺の心はどんどんすり減って行ったが、それでもほめてもらえる、認めてもらえる、そんな希望にすがって何とか平然を保てた。

 そして旅に出てから2年がたってようやく魔王のもとにたどり着いた。 流石に全員で魔王城に入ったが玉座の間には誰もいなかった。 周りを見渡しても人っ子一人いない。  どうしてなんだろうと思った瞬間だった、突然誰かに背中を斬られた。

 俺は突然の衝撃にうつぶせで倒れ、少し顔を上げて後ろを見ると血濡れの剣を握って王子と勇者パーティーが笑顔でそこにいた。 


「ここまでの魔獣退治、ご苦労だったな魔王! だがここまでだ!」


 突然のことに訳が分からなかった。 魔王? 俺が? この人たちは何を言っているのか? 整理も何もできなかった。


「魔王? どういうことですか?! 僕は勇者のはず」

「あなたみたいな下民が勇者? ふざけないでくださいまし! 勇者とはここにいるアーノルド様のことを指すのです!!」

「え?・・・・・」

「そんなことも知らずにお前みたいなゴミ、2年間勇者として頑張ったんだ! ありがたく死ね!」

「あたしらは、魔王であるあんたを殺してすべての手柄と栄誉をいただけるなんて光栄でしょ? あんたにはもったいないんだからねぇ」

「至極当然のこと」


 それから俺に向かって攻撃魔法や斬撃などの攻撃をしてきた。 ボロボロになりながらも俺は逃げ続けて聖剣を構えようとしたが剣は抜けなかった。


「なんで抜けないの!!」


 なんとか抜こうとしたが抜けなかった、そんな時聖剣から声が聞こえてきた。


『ようやくあなたのような偽りの使い手から解放されますね。 今までご苦労様でした』

「え?」

『あなたは用済みです』


 そう聞こえると聖剣は俺の前から消えて王子の手元に戻っていった。 すべては意味もなかったことだった。そんな絶望が脳内を駆け巡った。 俺はその場でへたり込んでしまった。 そして俺の前に王子が聖剣を掲げて俺を斬った。

 俺は瀕死の状態だが、王子と勇者パーティーは俺をあざ笑いながら、城近くの崖に俺を運んだ。


「おまえさぁ、いろいろ頑張ればみんなに褒めてもらえると思った? 残念でした♪ お前みたいなゴミ初めから誰も相手にしねぇよ。 神様にも見捨てられたゴミがよ。 じゃあな♪」


 そう言って俺を崖にむかって投げ捨てた。 落ちていく中俺は今までのことが無駄だったんだと悟ってしまった。 すべてが無駄。 意味もなかった。 俺は絶望の中で少し泣いて意識を失ったのであった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る