11

「やめてよ、バカ!」

 部屋に入るなり彼は乱暴に私の服を剥ぎ取った。悲鳴を上げる間もなく、シャワー室に放り込まれ、水を浴びせられる。

「ぶ、わっ、やめて、やめ……っ!」

 混乱する私に構うことなく、白珪は私の体をくまなく見た。

「傷、なし。目や鼻、口からも血は入っていないな?」

 意味のわからないことを言う男になすがままにされ、私は死を覚悟した。

――ああ、私ここで死ぬのね。変質者にレイプされて殺されて、ホテルの清掃員に発見されるんだわ……。

「ヨシ!」

「は?」

 全裸の私を前にして白珪はニカッと笑い、直後シャワー室の床にばったり倒れ込んだ。彼の体から流れる血液が、水と共に排水口に吸い込まれていく。

「……え」

 裸に剥かれた私は愕然となった。彼はぴくりとも動かない。

「ちょっと、やだ、どうしよう……!」

 あまりの出来事に私はさらなる混乱状態に陥った。通報しようにも、指が震えてスマートフォンの画面を上手くタップできない。

――私を庇って車に轢かれて……救急車呼ぶって言ったのにラブホに連れ込まれて……信じてもらえる? 私、疑われる? この人を殺した容疑で逮捕される?

「たす、けてぇ……助けて、誰か」

 泣くしかなかった。

 一気にいろいろあり過ぎて理解が追いつかない。

 どうしてこんなことになったの?

 私、どこで間違えた?

「もう嫌だ……もう嫌だよお、うええぇ……」

 シャワー室でうずくまり泣いていると、優しい声が響いた。

「泣くな、咲菜子は俺が守ると言ったろう」

「は……?」

「服を着なさい。風邪をひく」

 死体が、ニッコリと笑った。

「へ……?」

 続いてむくりと起き上がり。私を抱き締め、背中を撫でる。

「もう大丈夫だ」

「え、何? 何が大丈夫なの? 今、し、死んでなかった?」

 私は魚みたいに口をぱくぱくさせた。

 飛び出た骨で裂けた血まみれのシャツが、先ほど見たのが幻覚や妄想でないことを物語っている。しかし、死んだはずの男は目の前で平然としている。傷一つない。

「お、おかしくない? だって神様がその、何ていうか……人間の男の人に受肉したのがあなたでしょ? あんな大怪我したら普通に死ぬでしょ? それとも、回復する系のゾンビ……?」

「おお、ゾンビとは初めて言われたな。土葬された死人しびとが化け物になって地面から出てくるアレだろう? まあ、俺も似たようなもんだな」

 彼は部屋の入口からシャワー室まで点々と散らばっている私の服と下着を拾い上げ、ぽかんと口を開けている私に手渡した。

「服を着なさい。話はそれからだ」

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