068 第三拠点での会議
「絶対に人ですよこれ! 何とかして私たちのことを知らせないと!」
七瀬が体を揺すってくる。
いつになく興奮していた。
「いや、今回は何もしないでおこう」
「なんでですか!? こんなチャンス二度とないかもしれないのに!」
「気持ちは分かるが、まずは皆と相談するのが先だ」
「相談って……。そんな悠長なことを言っている場合じゃないですよ! やっと日本に帰れるかもしれないのに!」
七瀬は焦っていた。
それだけ日本に帰りたいのだ。
気持ちは分かる。
(安全性やら他の皆のことやら、色々と言いたいことはあるが……)
そういった発言をしたところで効果はないだろう。
なので別の方向から説得することにした。
「もしあの船が今回しか来ないとしても問題ない」
「どうしてですか!?」
「その時はこっちから船を造って出向けばいいんだよ、最終手段だけどね」
「船を造る……?」
「動物の力を借りれば俺たちにだって帆船を造れる。もちろん一日二日でポンッと造ることはできないが、時間をかければ間違いなく可能だ」
「たしかに先輩ならできると思いますが……」
七瀬の語気が弱まった。
いくらか落ち着いたようだ。
「だからまずは皆と相談しよう。安全面についてとか、色々と検討したいことがあるからさ」
言い終えた後、俺は「いいか?」と尋ねた。
「分かりました。すみません、私、取り乱しちゃって」
「いいさ。俺だって少なからず興奮している。とりあえず戻ろう」
「はい!」
カメラの捉えた船に接触することなく、俺たちは引き返した。
◇
異世界人の発見によって状況が変わった。
全員に作業を中断させ、建設中の第三拠点付近に集まる。
まずは皆に撮影した写真を見てもらった。
「マジで船じゃん! 人もいるし!」
千夏が声を上げる。
「この世界に私たち以外の人がいたんだ!」と明日花。
「なんか希望が見えてきたかも!」
麻里奈も興奮している様子。
「そんなわけで、この異世界人についての対応を決めたいと思う」
話しながら、俺は女性陣の後ろにそびえる第三拠点に目を向けた。
第二拠点のものとは比較にならない巨大な竪穴式住居だ。
それ一つで全員を収納できるだけの広さを兼ねている。
骨格に用いる木材の数も段違いだ。
サルたちが建築作業に励んでくれていた。
「対応って? 船を造って会いに行けばいいんじゃないの?」
千夏が言う。
七瀬が頷いて同意した。
「七瀬にも言ったがそれは最終手段だ」
「なんでさ?」
「相手と円滑なコミュニケーションがとれるとは思えない」
「日本語は当然として、相手が異世界人なら英語も通用しないよね」
吉乃が補足する。
千夏と七瀬の口から「あー」と納得の声が漏れた。
七瀬はともかく、千夏がこの説明を受けるのは二度目のはずだ。
兵藤が使っている集落へ行く際にも同様の話をしたから。
忘れているのだろう。
「加えて、相手が友好的かどうか分からない。そう考えると、逃げ場のない海で会うのは危険だと俺は思う」
「「「たしかに」」」
「意思疎通が難しいこと、また、友好的か分からないこと。この二つを大前提として、どうしたらいいか皆の意見を聞かせてほしい」
これに対し、最初に口を開いたのは吉乃だった。
「相手からすると、無人島に謎の集団がいるってことだよね?」
「そうなるな」
「私が相手の立場だったら安全圏から接触を試みると思う。で、言葉が通じるなら話を聞くけど、通じないなら引き返す」
「合理的な行動だな。だが、必ずしもそうとは限らない。兵藤みたいに攻撃的な暴君だったら、いきなり攻撃を仕掛ける可能性もある。武力で制圧してから話を聞けばいい、という考え方だ」
吉乃は「そうそう」と相槌を打ち、それから続けた。
「なので接触は避けたいかも。相手が攻撃的だったら太刀打ちできないから」
「こっちの戦力って実質的には海斗くらいだもんねー」と麻里奈。
「おいおい、私がいるじゃないか!」
千夏が弓を掲げる。
「でもあんた、人間に向かって矢を射られないでしょ」
「ぐっ……たしかに……」
(いや、俺も人に射かけるのには抵抗があるのだが?)
思ったが口には出さないでおいた。
話の脱線を防ぐために。
「私はリスクを承知で接触したいですねー」
これは七瀬の意見だ。
さらに、彼女は力強い口調で続けた。
「だって今のままだと日本に戻る
一理ある。
誰もがそう思っていた。
「相手がどんな人間か分かったら悩まないのにねー!」と希美。
「そこなんだよな、問題は」
友好的なのか、敵対的なのか。
言葉が通じるのか、通じないのか。
素性が全く分からないことが悩ませている。
「分からなくても一か八かで話すべきだと私は思います! それで相手がヤバい奴等で酷い目に遭うとしても、それはもう仕方ないと割り切れます! 動かないで後悔するなら動いて後悔したいです!」
七瀬の主張は一貫していた。
彼女がここまで強く意見するの初めてのことだ。
「接触するにしても安全を確保したいよねー」と麻里奈。
「そんなのどうやるんですか? 銀行強盗みたいに武器を突きつけて……なんて無理ですよ?」
即座に反応する七瀬。
彼女の発言を聞いていて閃いた。
「異世界人とはこの島で話そう」
「「「えっ」」」
皆が俺を見る。
「この島でってどういうことですか? 相手に来てもらうんですか?」
七瀬の問いに「そうだ」と答える。
「船から見えそうな位置に狼煙を上げて気づいてもらう。そうすれば島に近づいてくるはずだ。煙に気づいた奴等がそのまま来るかもしれないし、そいつが通報して別の人間……日本でいうところの海上保安庁みたいな奴等が来るかもしれない。とにかく様子を見に来るはずだ」
「近づいてきたところで話しかけるわけですか!」
「その通り。もちろん危険はある。相手が攻撃的だったら会話が成立することなく殺し合いに発展しかねない。だが、その際でも俺たちの土俵で戦える。地の利はこちらにあるから、船上で接触するよりはリスクが低い」
この島には人間以外の戦力も充実している。
サルやサイ、トラにハイエナ、他にも色々な猛獣が味方だ。
「私はそれでいいと思います! 賛成です!」と七瀬。
「私も賛成だぜぇ!」
千夏が続く。
他からも続々と賛成票が入る。
「私は……やっぱり不安だなぁ」
最後まで渋っていたのは吉乃だ。
「ぶっちゃけ俺も不安だ。しかし、挑戦してみる価値はあると思う」
「そうなんだよね。だから私も賛成で」
こうして、満場一致で方針が決まった。
「ここのサルって火を熾せるよな?」
「大丈夫だよー! 確認済み!」
明日花がグッと親指を立てる。
「なら狼煙はサルにお願いするか。ついでに海の監視も任せて、船が接近してきたら報告してもらおう」
俺は女性陣の後ろでくつろぐサル軍団に目を向ける。
いつの間にか第三拠点の巨大な竪穴式住居が完成していた。
「話は聞いていたな? お前らの力が必要だ。頼めるか?」
「ウキィ!」
サルたちは立ち上がると敬礼。
やる気十分だ。
「サンキュー」
方針が決まり、拠点も無事に完成。
謎の異世界人たちに期待と不安を抱きながら、俺たちは帰路に就いた。
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