057 第二拠点での夜
夜は別々の竪穴式住居で過ごすことにした。
サルにプレゼントした分を除いても10軒あるため、1人1軒の利用でも余る。
余った2軒の住居はいずれ倉庫にする予定だ。
(ここの欠点は真っ暗で見えづらいことだな)
真夜中ともなれば、外の様子がさっぱり分からない。
中央――全ての家から見える位置――に焚き火をこしらえてはいるが、それでも他の住居がどうなっているのかは見えなかった。
仮にこの場でムラムラを解消したとしても、声さえ漏らさなければバレないだろう。
便利と言えば便利だが、何があるか分からない環境なので心配になる。
(明日からは3~4組に分けて固まるほうがいいかもしれんな)
そんなことを思っていると。
「お邪魔しまー!」
千夏がやってきた。
白のパーカーは既に洗濯しているため肌着だ。
ミニスカートや黒タイツも穿いておらずパンティーが剥き出しである。
いつも温泉で裸体を見ているが、それでも「おほっ」となった。
「一人か、珍しいな」
「そう? 私って一人で作業してばかりじゃない?」
「いつもジョンが一緒だろ?」
千夏は、ああ、と理解した。
「ジョンは家でお休み中!」
「ほう」
「それよりさぁ――」
千夏は俺の背後に回り込み、抱きついてきた。
うなじに胸が押し当てられる。
ノーブラなのでいつも以上にむにむにしていた。
「――こっち側の森でも狩猟をさせてよぉ」
どうやらそれを頼みたくて色仕掛けを試みたようだ。
「それは望ましくないな。この辺の動物は仲良しばかりだし」
「そうじゃないのもいるじゃん? サルに訊いたら巣穴を利用している動物とは関わりがないって言っていたよ」
「巣穴って、その辺に散見される巣穴のことか?」
「そうそう! あっちの森のアナグマに比べて大きいよね! だから獲物もデカいと思うんだよねー! 泥団子で炙り出して、矢でズドンッといきたい!」
よほど狩りをしたいようだ。
しかし……。
「残念だが認められないな」
「なんでさー!?」
うなじに伝わる胸の感触がスッと消える。
俺が拒んだのでご褒美はお預けということか。
なんとズルい女だ。
「あの巣穴がアナグマのものだったらいくらでも許可していたんだがな」
「違うの?」
「あれはオオアルマジロの巣穴だ」
「へぇー、オオアルマジロは狩ったらダメなの?」
「森の生態系に大きく関わる生き物だからね」
「そうなの?」
千夏は俺の隣に腰を下ろした。
「オオアルマジロは変わった動物でな、巣穴に長居しないんだ。何日か利用したら放棄して違う場所に移動する」
「あんなに大きな巣穴なのに捨てるの!?」
「で、また新しい場所に巣穴を掘る。平均すると3日に1回くらいのペースで巣穴を掘っているぞ」
「すごっ!」
「ここからが大事なんだけど、オオアルマジロの放棄した巣穴は別の動物が利用するんだ」
「別の動物って?」
「色々だよ。ウサギなどの小動物であったり、向こうの森で狩りまくっているアナグマだったり、この島だとないけどヘビなんかも利用することがある」
「本当に色々!」
「そうした生き物にとって、オオアルマジロが捨てた巣穴ってのはシェルターなんだ。だから、オオアルマジロを狩るとシェルターの供給役がいなくなり、力の弱い動物の多くが危険にさらされてしまい生態系が……というこった」
「でもさ、それなら巣穴の動物を狩っても問題なくない? オオアルマジロの巣穴でも、中で過ごしているのは別の動物なんだし。オオアルマジロは無事じゃん!」
「まぁな。でも、うっかりオオアルマジロを狩る可能性がある。もっとも、何らかの理由により100%確実にオオアルマジロを狩らないことができたとしても、やはり承諾することはできない」
「えー! なんでだよー?」
「狩った獲物が本当に問題ないか分からないしな。サルは気にしなくても、サイや他の猛獣との関係が悪化するかもしらん。海を目指している以上、下手に刺激して敵対関係になることは避けたい」
「なるほど! なら仕方ないなぁ」
「わるいな」
「いやいや! 問題ないよ! 海斗の説明を聞いて納得したから! オオアルマジロの豆知識も知られて大満足!」
千夏は「ありがとね」と、隣から抱きついてきた。
今度は右腕が彼女の胸に挟まれてしまう。
「……なぁ、あんまりこの暗がりで密着するのはやめてくれ」
「えー、ムラッとしちゃうの?」
「認めよう、その通りだ」
「あはは、素直だねぇ。でも、ほんとにやめていいの?」
「それは……」
千夏はニヤリと笑い、耳元で囁いた。
「今なら他の人からは見えないから何でもできるよ?」
「じゃ、じゃあ、あんなことやこんなことも……?」
「うん、特別にいーよ! 私も期待して来たわけだし?」
その言葉が引き金となった。
「ええい! もう我慢できん! 後悔しても遅いからな!」
俺は千夏に唇を重ね、そして――。
◇
翌日。
朝ご飯はサルも含めた大人数で食べた。
さらに水を飲みに来た猛獣たちには井戸水をプレゼント。
そうやって交流を深めたあと、午前の作業が始まった。
「麻里奈チーム、いくぞー!」
「「おー!」」
希美と由芽が手を挙げる。
吉乃も無言で続いた。
麻里奈、希美、由芽、吉乃の四人はフカフカ布団の製作担当だ。
そのために綿や木材の調達及び織機の製作をしてもらう。
「行くよー、ジョン!」
「グルルーン!」
千夏は狩猟をするべく、ジョンとともに“内側の森”へ向かう。
内側の森とは、第一拠点の洞窟がある向こう側の森のこと。
いつまでも「対岸の森」や「向こう側の森」だと分かりづらい。
――そう吉乃から提案されて、今日から「内側」と「外側」で分けることにした。
川の内側と外側……という考え方だ。
したがって、俺たちが今いる森が外側の森となる。
「海斗、今日の晩もイチャイチャしようなー!」
去り際に千夏が言った。
「気が向いたらなー!」
俺も大きな声で返す。
昨日は千夏と一夜を明かしたが、その件は皆に知られていた。
朝、同じ屋根の下で寝ているところを目撃されたからだ。
当然ながら呆れられたが仕方ない。
据え膳は食ってこそ男だ。
「まずいですよ明日花先輩、このままだと千夏先輩が海斗先輩をモノにしちゃいますよ!」
「大丈夫! 胸の大きさなら負けていないから! 海斗君が最後になびくのは私だよ!」
「さすがです! でもでも、私だって負けませんよー! 胸は小さいですけど、テクニックには自信がありますから!」
明日花と七瀬は籠を背負って食材の調達へ。
「さて、俺も出かけるとするか」
麻里奈たちの準備が整うのは早くても昼以降。
待っている間、俺は別のタスクを消化しておくことにした。
由芽のリュックに必要な物を詰め込んでいく。
「腰蓑一丁の半裸スタイルにリュックとは我ながら
自分の格好を客観視するものの、別のスタイルに変える気はない。
準備を済ませるとリュックを背負って第二拠点を発った。
俺の任務はデジタルドームの調査。
――ではなく、兵藤たちの集落まで行くことだ。
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