049 休日とお礼

 夜、巨大ジャガーの毛皮を鞣し終わった。


「この毛皮でマントを作るとしよう」


 そのままだと大きすぎるので調整する。

 まずは首から上、頭に当たる部分を切り落とした。

 前肢部分は切らずに残し、胴体の適当な場所でカット。


「これで完成だ」


 試しに羽織ってみた。

 前肢の毛皮を首の前で結んで一丁上がり。


「「「おお!」」」


 皆が歓声を上げる。


「めっちゃカッコイイじゃん! ジャガーのマント!」


 千夏はアクションヒーローを見る子供のように目を輝かせた。


「少し短すぎない? ちょっとちんちくりんな感じがする」


 と言ったのは吉乃だ。


「俺しか使わないならそうだけど、皆も羽織ってみたいかと思ってさ」


 マントの長さは約110センチ。

 この中で最も背の低い明日花が羽織れるように設計した。


「私に配慮してくれたんだ! ありがとー海斗君!」


 明日花は嬉しそうにニコッと笑った。


「制服にマントの組み合わせってわりとアリですねー!」


 七瀬の発言に、由芽も「海斗先輩、似合ってます」と続く。


「そうか? いい感じか?」


 嬉しくてニヤけてしまう。


「海斗さん、私にも羽織らせて!」と希美。


「おうよ」


 このやり取りを機に、女性陣が代わる代わるマントを試着していく。

 しばらくの間、俺はファッションショーを楽しむのだった。



 ◇


 次の日。

 今日は制服を洗濯しているため露出度の高い格好だ。

 ただし由芽と希美は制服……のはずだったのだが。


「今日から私らもお揃いだよーん!」


 希美が「じゃじゃーん!」と、洞窟の奥から登場。

 明日花たちと同じく毛皮のブラに腰蓑という格好だ。


(初めて会った時から思っていたが、やはり大きい……!)


 俺の視線は希美の胸に一直線。

 明日花と良い勝負をする膨らみ具合だ。


「あ、あの、海斗先輩、私も……」


 その声によって由芽に気づいた。

 希美の隣に立っている彼女もまた、他の女子と同じ格好をしている。

 こちらの胸は控え目なのだが――。


「ぅぅ、やっぱり、恥ずかしいですね、これ……!」


 頬を赤らめて両手で胸部を隠す様子が素晴らしい。


「大事にしていけよ、恥じらいの心を」


「え?」


「海斗君って思ったよりも変態だよね」


 すぐ近くで朝食を準備している明日花が呆れ顔を浮かべた。


「男子は皆そういうものだとはいえ、海斗は相当だよね」と吉乃。


「どれだけ呆れられようが否定も隠匿もしない! そう、俺は変態だ!」


 俺は腰に両手を当てて言い放つ。

 その結果――。


「自重しない変態はダメ!」


 と明日花に叱られ、罰として朝食の準備を手伝わされるのだった。


 ◇


 朝食が終わると、皆は一服しながら俺の指示を待っていた。

 洞窟の奥のひんやりした空間で、座ってだらだら雑談に耽っている。


「そろそろ今日の指示を出すぞ!」


 俺は立ち上がった。

 それによって女性陣の会話が終わり、視線がこちらに注がれる。


「今日の指示は……働くな!」


「「「えっ」」」


 誰もが目をぎょっとさせた。


「働くなってどういうこと!?」と千夏。


「言葉通りさ。今日は休みとする!」


「休みぃ!?」


「健康を維持するには適度な休みが必要だ。しかし、俺たちはここまで休みなく働いてきた。その甲斐あって食料などの備蓄がそれなりにあるので、今日は余暇を満喫することを指示とする!」


「じゃあ誰がご飯を作るの!?」


 料理大臣の明日花が眉間に皺を寄せる。


「それは各々で適当に――」


「ダメ! 私が作る! 料理大臣なんだから!」


 猛反発を受ける。

 その勢いに気圧けおされて、俺は「ウッ」と息を詰まらせた。


「そ、そこまで作りたいなら作ってくれてもいいけど、働き過ぎないようにしてくれよ……?」


「うん!」


「じゃあ今日は私も料理に参加しちゃうかー!」


 内職大臣の麻里奈が言う。


「私にも手伝わせてください!!!!!!」


 洞窟に響き渡る声で言ったのは由芽。

 勇気を出した結果、ボリュームの調整を誤ったようだ。

 彼女は即座に顔を赤くし、「すみません」と頭をペコリ。

 まだまだ人見知りである。


「じゃあ今日は麻里奈と由芽が私の助手ね! 一緒にがんばろー!」


 明日花は二人の手を取ってニコッと微笑んだ。


「あたしゃ散歩だー! ジョン、行くぞー!」


「グルルーン!」


 千夏はジョンに騎乗して洞窟の外へ。

 他の女性陣もぞろぞろと出ていって、初めての休日が幕を開けた。


 ◇


 数分後、洞窟の奥には俺しか残っていなかった。


「あいつら、本当に休みだと分かっているのか」


 ウチの女性陣は働き者だ。

 過労で倒れないか心配になってくる。


「いざとなれば強制的に休ませればいいか」


 俺は布団の上で横になる。

 皆が頑張っていようと関係ない。

 休日なので思い切り休ませてもらうとしよう。


 そう思っていたところ――。


「やっほー! 変態さん!」


 ――希美がやってきた。

 俺のすぐ隣に腰を下ろし、ニィと白い歯を見せて笑う。


「変態の傍にいるとエロい目で見られるぞー」


 などと言いつつ、俺は早くも彼女の胸を凝視。

 薄暗い空間で覗く谷間には、表情を和らげる効果があった。


「海斗さんってさー、ほんと巨乳好きだよねー」


 希美は嫌がる様子もなく笑った。


「おうよ! よく分かっているじゃないか!」


「そりゃ分かるよ! だって視線がずーっと胸に向いているもん!」


「女子は男の視線に敏感だと言うが、やはりバレるものか」


「バレバレ……ていうか、海斗さんは隠す気ないっしょ!」


「へへ、まぁな」


「そんな調子だとまた明日花さんに怒られちゃうよー!」


「仕方ない、これでも必死に我慢しているほうなんだ」


 本当の話だ。

 美少女たちに囲まれている中、よく耐えていると自負している。

 性欲を抑えるのは、女子が思っているよりも難しい。


「へぇ、男子って大変なんだねー」


 希美がニヤリと笑い、舌なめずりをする。


「その顔……なんだか良からぬことを企んでいそうだ」


「お礼も兼ねて苦しめてやろうと思ってね!」


「どういう――うおっ!?」


 話している最中に、希美が膝枕をしてきた。

 俺の頭をひょいっと上げ、枕代わりの学生鞄を横にずらす。


「からのー!」


 そう言うと、希美は上半身を前に倒した。

 思わず凝視してしまう程の大きな胸が顔を圧迫してくる。


「どうだー!? 私のお礼は!」


「おほほのほー!」


 鼻が谷間に挟まって息苦しく、その上、ほのかにむわっとしている。

 ――が、それも含めて幸せだ。


「ところでこの極楽浄土は何のお礼なんだ?」


「私と由芽を拾ってくれたお礼だよ! 存分に楽しめー!」


「生きてて良かったぁ」


 うひょひょ、と我ながら気持ち悪い笑い声を発する。

 しばらくの間、俺は至福の時を満喫するのだった。

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