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駅からで出ると、もわっとした空気を感じる。緩くまとわりつくベタついた空気に、そろそろ雨が降るのかな、なんて考えながらコンビニに立ち寄る。
この時間にもなるとお弁当もお惣菜も売り切れており、カゴにビールだけが入ったまま呆然とする。
特に食べたいものは思い浮かばないが、何も食べないのもよくないと思いカニカマと漬物、サバの味噌煮缶を一緒にカゴに放り込んだ。
やる気のないレジ店員に、そのくらいのゆるさで働いてみたいな〜などと考えながら精算を済ませる。
ひんやりとしたコンビニから出ると、もわりとした外の空気はより一層重たくなったように感じる。早く帰ってご飯食べて、お風呂入ってすぐ寝なきゃ…あー。洗濯回しておけばよかったな、こんな湿度が高かったら干しても乾かないや。そんなことを考えていると、ぽつりぽつりと雨が降り出した。
あぁ、やっぱり。降ると思ったよ。
疲れ果てた体を走らせるなんて気にはなれず、雨に降られながらとぼとぼと自宅に歩みを進める。
自炊もずっとできてないし、掃除もできてない、家に帰ってできる趣味なんてスマホで猫ちゃんの癒し動画を眺めるだけ…。仕事は楽しいけれど、お酒を飲んで動画を見て一日が終わる毎日が、幸せだと言えるのだろうか。
どんどん重くなる足取りのせいか、何かにつまづいてしまい体のバランスを崩す。
「おっと…危ない。転ぶかと思った・・・ん?」
下を見やるとボロボロになった段ボールが落ちていた。なぜこんなところに…。まさか、よくあるアニメの展開的な感じで、「拾ってください」なんて書かれて猫ちゃんが捨てられてたりね、はは。そんなわけあるわけないか。
そう思いながら開きかけた段ボールを開いてみると
「拾ってください」
そう乱雑な文字で書かれたメモとともに、一匹の猫がうずくまっていた。
——————
気が付けば私は猫をお風呂で洗い終え、タオルでゴシゴシ拭いているところだった。猫はとても大人しく、怯えている様子もなければとても懐くような様子もなかった。
毛並みは思ったよりも綺麗で、長い間捨てられている感じではなかった。グレーの毛は長すぎず短かすぎず、ふわふわしていた。満月のように丸く黄色い瞳がなんとも猫らしい。
猫は私に目もくれず、家の中を散策していた。
サイズは子猫というには大きくて、成猫にしては小さいようにも見えた。
実際に猫を飼ったことがない私には、品種によるサイズ感なんてものはわからない。
いつ捨てられたのだろう、ご飯は何を食べるのか・・・?
今まで見てきた猫の癒し動画を脳内で再生しながら、玄関に放置したカニカマとサバの味噌煮缶を思い出した。サバの味噌煮缶は塩分が強そうなので、カニカマを小さく割いて猫に差し出す。
「猫ちゃん、おいで。ご飯だよ。」
ご飯という単語に反応したのか、猫は散策をやめ恐る恐る私の指先に鼻を当てる。
ふんふん、と匂いを確認した後、指先を中心に頭を捩らせ耳の後ろにすりすりさせる。その後匂いをたどりながらカニカマの匂いもチェックし、ぺろりとした後小さな口で食べ始めた。
よかった、食べてくれた。
我が家に、ついに猫ちゃんがやってきてしまった————。
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